【No1004】エンジェル税制における繰戻し還付制度の創設

令和7年度税制改正により、エンジェル税制における繰戻し還付制度が創設されました。

エンジェル税制とは、個人投資家がスタートアップ(新しいビジネスモデルや市場を開拓し、短期間で急成長を目指す企業)へ投資を行った場合における税制上の優遇措置となります。

エンジェル税制の適用要件を満たすと、以下のような優遇措置が受けられます。

《 投資時点の優遇措置 》

スタートアップへの投資額について、その年の株式の譲渡益から控除、または寄附金控除が適用されます。

《 損失発生時の優遇措置 》

未上場スタートアップ株式の売却により損失が生じた場合、他の株式の譲渡益と損益通算できるだけでなく、通算しきれなかった損失は翌年以後3年間繰り越して控除できます。

なお、スタートアップが上場しないまま破産などにより株式の価値がなくなった場合でも、売却により損失が生じたものとみなされ、同様の優遇措置が適用されます。

これまで、売却により損失が生じた場合、その年や翌年以後3年内に他の株式の譲渡益があれば、通算や繰越控除が可能でしたが、必ずしも譲渡益が生じるとも限りません。そこで今回の税制改正により、譲渡益が生じた翌年にスタートアップ企業に支援を行った場合に、前年に遡って還付請求ができる「繰戻し還付制度」が創設されました。今回はその概要をご紹介します。

【1】「特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等」について

(1) 特定株式控除未済額の繰戻し還付制度

令和8年1月1日以後に控除対象特定株式を払込みにより取得をした居住者等(一定の同族会社を除く)は、その年において生じた特定株式控除未済額(注)がある場合には、原則としてその年分の確定申告書の提出と同時に、所轄税務署長に対し、その年の前年分の所得税のうちその特定株式控除未済額に対応する部分の金額の還付を請求することができることとされました。

この還付請求は、その年の前年分の確定申告書に、一定の書類を添付して、その提出期限までに提出している等の要件を満たす場合に限り、適用することとされています。

また、居住者等が年の中途において死亡した場合における準確定申告書を提出する者は、その居住者等の特定株式控除未済額について、上記と同様に、所得税の還付を請求することができることとされました。

(注)「特定株式控除未済額」とは、その年分の一般株式等に係る譲渡所得等の金額と上場株式等に係る譲渡所得等の金額の合計額が、その年中における控除対象特定株式の取得に要した金額の合計額に満たない場合におけるその満たない部分の金額のうち一定の金額をいいます。

(2)所得税の還付を受けた場合における控除対象特定株式の取得価額

所得税の還付を受けた場合には、その還付の請求の基礎となった特定株式控除未済額が生じた年の翌年以後の各年分におけるその特定株式控除未済額に係る控除対象特定株式に係る同一銘柄株式の取得価額について、一定の調整計算を要することとされました。

(3)取得年の翌年中に特例適用控除対象特定株式の譲渡をした場合

特例適用控除対象特定株式(注)を払込みにより取得をした居住者等が、その取得をした年の翌年中にその特例適用控除対象特定株式の譲渡(上場等の日以後に行われる譲渡その他の一定の譲渡を除く)をした場合には、その取得をした年以後の各年分におけるその特例適用控除対象特定株式に係る同一銘柄株式の取得価額について、一定の調整計算を要することとされました

(注)「特例適用控除対象特定株式」とは、その取得をした年に「特定投資株式の取得に要した金額の控除等」の適用を受けた特例控除対象特定株式又はその年において生じた適用特定株式控除未済額に係る特例控除対象特定株式をいいます。

【2】「特定新規中小企業者がその設立の際に発行した株式の取得に要した金額の控除等」について

(1)設立特定株式控除未済額の繰戻し還付制度の創設

上記【1】(1)と同様に、その年の前年分の所得税のうち設立特定株式控除未済額(注)に対応する部分の金額の還付を請求することができることとされました。

(注)「設立特定株式控除未済額」とは、その年分の一般株式等に係る譲渡所得等の金額と上場株式等に係る譲渡所得等の金額の合計額が、その年中における控除対象設立特定株式の取得に要した金額の合計額に満たない場合におけるその満たない部分の金額をいいます。

(2)所得税の還付を受けた場合における控除対象設立特定株式の取得価額

上記【1】(2)と同様に、上記(1)により所得税の還付を受けた場合には、その還付の請求の基礎となった設立特定株式控除未済額が生じた年の翌年以後の各年分におけるその設立特定株式控除未済額に係る控除対象設立特定株式に係る同一銘柄株式の取得価額について、一定の調整計算を要することとされました。

(3)取得年の翌年中に適用控除対象設立特定株式の譲渡をした場合

上記【1】(3)と同様に、適用控除対象設立特定株式(注)を払込みにより取得をした居住者等が、その取得をした年の翌年中にその適用控除対象設立特定株式の譲渡(上場等の日以後に行われる譲渡その他の一定の譲渡を除く)をした場合には、その取得をした年以後の各年分におけるその適用控除対象設立特定株式に係る同一銘柄株式の取得価額について、一定の調整計算を要することとされました。

(注)「適用控除対象設立特定株式」とは、その取得をした年に「設立特定株式の取得に要した金額の控除等」の適用を受けた控除対象設立特定株式又はその年において生じた適用設立特定株式控除未済額に係る控除対象設立特定株式をいいます。

(文責:税理士法人FP総合研究所)