【No1038】複雑な「家なき子特例」(小規模宅地等の特例)の適用要件を再確認
不動産価格の高騰が続く中、相続税の軽減として重要性を増しているのが「小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)」です。配偶者や同居の子がいる場合は比較的容易に特例適用の可否を判定できますが、核家族化が進む現代では別居している子が親の自宅を相続するケースも少なくありません。そこで重要になるのが、通称「家なき子特例」(租税特別措置法69条の4第3項第2号ロ)です。平成30年度の税制改正により要件が厳格化され、特例適用の可否判断を迷わせる要因が更に多くなりました。今回は、各要件の詳細を確認し、実務上誤りやすいポイントについても説明します。
1.「家なき子」の要件確認リスト
通称「家なき子」に該当し、特例の適用を受けるためには、以下の(1)~(6)の要件すべてを満たす必要があります。
※ 本稿では「家なき子特例」の適用要件を便宜上(1)~(6)に整理して解説します。
【Step1】被相続人の法定相続人の状況確認
(1)被相続人に配偶者がいないこと
(2)被相続人と同居の法定相続人(注)がいないこと
(注)相続の放棄があった場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人
※ 条文上は「相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族で政令で定める者」と記載されています。
※ 政令(租税特別措置法施行令40条の2第14項)では、民法第5編第2章の規定による相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)と記載されています
※ 民法第5編第2章の規定による相続人とは、法定相続人を意味します。
≪ポイント≫ 被相続人が孫や兄弟姉妹と同居していた場合でも、その者が被相続人から見て法定相続人(相続の放棄がなかったものとした場合の相続人)に該当しなければ「同居の法定相続人」には当たらず、家なき子特例の適用可能性は排除されません。
【Step2】 取得者(相続人)の要件確認
(3)【国籍・生活の本拠】(相続開始時で判定)
「居住制限納税義務者」または「非居住制限納税義務者」のうち日本国籍を有しない者ではないこと。
つまり、「外国籍の居住制限納税義務者」と「外国籍の非居住制限納税義務者」は対象外となります。
(4)【家屋(国内外問わず)の自己所有が一度もなかったこと】
相続開始時に取得者が居住している家屋は、過去に一度も自身が所有(共有を含む)していたことがないこと。
※ 下記(5)の3年ルールとは異なり、この要件で確認すべき家屋は日本国内の所在するものに限定されていません。所在が国内外のどこにあるかを問わず、相続時に自己所有歴(共有含む)のある家屋に居住していれば特例の対象外となります。
(5)3年ルール(関係者の国内持ち家に居住していた者の排除)
相続開始前3年以内に、【日本国内にある】以下の家屋に住んでいないこと。
・取得者、取得者の配偶者
・取得者の三親等内の親族(親、子、孫、祖父母、叔父叔母、義父母など)
・同族会社(注)
これらの者が所有する家屋(但し、被相続人の居住用家屋を除く)
(注) 同族会社:相続人と親族等で発行済株式等の50%超を保有する法人、または親族等が理事・監事・評議員その他これらに準ずる者となっている持分の定めのない法人(医療法人・一般社団法人等)
(6)【申告期限までの継続保有】
相続した土地を、相続税の申告期限まで持ち続けていること。(居住要件はなし)
2.【事例検証】実務上、判断に迷いやすい事例を検証
【検証1】 「3年ルール」の例外(直前まで親と同居していた場合)
<状況>
・父(被相続人)には配偶者がなく、法定相続人は長男(別居)のみである。
・長男は、父の自宅で父と同居していたが、1年前に仕事の都合で父の自宅を出て、賃貸アパートに転居した。
・父はその後、自宅で一人暮らしを続けて亡くなった。
⇒ 相続開始前3年以内に親の家に住んでいた長男は特例を使えるか?
▼ 判定:【 適用可 】
<解説> 本来、相続開始前3年以内に「親(3親等内親族)の家屋」に住んでいた場合は適用対象外となります【要件5】。 しかし、「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋」については、この3年ルールの対象となる家屋には含まれないこととされています(要件5のカッコ書き)。 したがって、直前まで同居していた父の自宅を出て、現在は借家住まい(持ち家なし)であれば、3年ルールの要件(5)は満たすことになります。
【検証2】 親の自宅に「同居人」がいる(同居人の属性判定)
<状況>
・父(被相続人)には配偶者がなく、法定相続人は長男(別居)のみである。
・父の自宅には父以外に、内縁の妻、孫(大学生)、叔父 が同居していた。
・それ以外の同居親族(法定相続人)はいない。
⇒ 別居している長男(家なき子)は特例を使えるか?
▼ 判定:【 適用可 】
<解説> 家なき子特例が使えなくなるのは、被相続人の自宅に「配偶者」【要件1】または「同居の法定相続人」【要件2】がいる場合です。 今回の同居人は、全員そのどちらにも該当しません。
・内縁の妻: 戸籍上の配偶者ではないため、配偶者にも法定相続人にも該当しません。
・孫: 子(長男)が健在であれば、法定相続人ではありません。
・叔父: 子(第1順位)がいるため、兄弟姉妹(第3順位)は法定相続人になりません。
したがって、これらの人が被相続人の自宅に何人住んでいても、「同居している法定相続人はいない」と判定されるため、別居している長男の特例適用を妨げません。
【検証3】 親族や会社の持ち家に住んでいる(所有者の判定)
<状況>
・父(被相続人)には配偶者がなく、法定相続人は長男(別居)のみである。
・相続人(長男)は持ち家がないが、以下の家屋に相続開始3年以内に住んでいたことがある。
ケースA: いとこ(従姉妹)の持ち家
ケースB: 父の自宅の敷地内にある「離れ」(父名義だが父は住んでいない)
ケースC: 役員を務める同族会社の社宅
⇒ 上記ABCの各ケースにおいて、長男は特例を使えるか?
▼ 判定:【 ケースAのみ適用可 / B・Cは不可 】
<解説> 「3年ルール(他人の家に住んでいればOK)」【要件5】には、厳格な除外要件があります。
・ケースA(いとこ):【 適用可 】 規制対象は「3親等内の親族」の持ち家です。いとこは「4親等」なので、その家に住んでいても問題ありません。
・ケースB(離れ):【 適用不可 】 父は「1親等」です。父が同居していない家屋(離れ)に住んでいる場合、検証1のように対象から除かれることもなく、単に「3親等内親族の持ち家に住んでいる」ことになり適用不可です。
・ケースC(社宅):【 適用不可 】 親族等が発行済株式等の50%超を保有する法人は、「特別の関係がある法人」に該当します。この基準に該当する法人の社宅に住んでいる場合は適用できません。
【検証4】 海外に住んでいる(国内・国外の判定)
<状況>
・父(被相続人)には配偶者がなく、同居している法定相続人もいない(日本で一人暮らし)。
・相続人(二男)は海外赴任中である。現地の住まいは以下の通り。
ケースA: 妻名義の現地の住宅
ケースB: 自分と妻の共有名義の現地の住宅
⇒ 上記ABの各ケースにおいて、二男は特例を使えるか?
▼ 判定:【 ケースAは適用可 / Bは不可 】
<解説> 判定のポイントは「場所」と「所有者」です。
・ケースA(妻名義):【 適用可 】 「3年ルール(関係者の国内持ち家に居住していた者の排除)」の対象は、日本国内の家屋に限定されています【要件5】。国外であれば、妻(親族)の持ち家に住んでいても問題ありません。
・ケースB(共有名義):【 適用不可 】 「過去に持ち家を持ったことがない(家なき子)」という要件【要件4】は、家屋の所在が国内外のどこにあるかを問いません。 海外であっても、自己所有している(共有持分がある)時点で「家なき子」には該当しなくなります。
【検証5】 過去の所有歴とリースバック
<状況>
・父(被相続人)には配偶者がなく、同居している法定相続人もいない。
・相続人(長女)は、以前所有していた自宅家屋を親族(または第三者)に売却し、現在は買主から賃貸(リースバック)する形で、そのまま同じ家屋に住んでいる。
⇒ 形式上、自宅家屋の所有者から自分を外すことができた長女は特例を使えるか?
▼ 判定:【 不可 】
<解説> 平成30年の改正により、「名義外し」による租税回避は完全に封じられました。 「現在住んでいる家屋を、過去に一度でも自分が所有していたことがある」場合は、無条件で適用対象外となります。【要件4】
【検証6】 申告期限までのアクション(売る・貸すなど)
<状況>
・父(被相続人)には配偶者がなく、同居している法定相続人もいない。
・相続人(長男)は家なき子の要件を全て満たしているが、申告期限(10ヶ月以内)までに以下の予定がある。
ケースA: 第三者に売却する(引渡しを行う)
ケースB: 賃貸に出す、取り壊す、あるいは自分が住む
⇒ 上記ABの各ケースにおいて、長男は特例を使えるか?
▼ 判定:【 ケースAは不可 / Bは適用可 】
<解説> 家なき子特例(特定居住用宅地等)における申告期限までの要件は、取得した宅地等を申告期限まで引き続き所有していることであり、居住の継続は要件とされていません【要件6】。
・ケースA(売却):【 適用不可 】 申告期限までに手放してしまうと適用できません。特例を適用した宅地等を売却する場合は、「引渡し日」を申告期限の翌日以降にする必要があります。
・ケースB(賃貸・取壊し等):【 適用可 】 特例の対象となるのは「宅地等(土地)」であるため、申告期限までその土地を所有していれば、その上にある建物を賃貸に供したり取り壊したりしても、継続保有要件(6)は満たします。
ただし、賃貸等を行うと、将来売却する際に所得税の「空き家特例(3,000万円控除)」の適用に影響する可能性があるため十分な注意が必要です。
(文責:税理士法人FP総合研究所)