【No368】医療法人における役員社宅の取扱い

今回の医業経営FPNewsでは、医療法人が役員に対し社宅を賃貸する場合についてご案内します。

役員社宅とは、医療法人が役員に対して提供する住宅をいいます。医療法人及び役員の税負担を軽減できる可能性がありますが、医療法との関係について注意する必要があります。

1.医療法との関係

(1)概要

医療法人が役員に社宅を提供する際には、一般法人と異なり医療法特有の注意点があります。医療法人は非営利性が求められるため、役員社宅のような役員に対する経済的利益の供与には特に注意が必要です。

医療法人は都道府県等の監督下にあります。役員社宅の貸与が、実質的な役員への利益供与であるとみなされる場合には、都道府県等の改善指導や命令の対象となる可能性があります。

(2)医療法第42条

医療法第42条(医療法人は、その開設する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院の業務に支障のない限り、定款又は寄附行為の定めるところにより、次に掲げる業務の全部又は一部を行うことができる。)において、医療法人が運営可能な附帯業務は限定列挙されています。また、厚生労働省が作成する「医療法人の業務範囲」のⅡ.附帯業務の留意事項1.において、「役職員への金銭等の貸付は、附帯業務ではなく福利厚生として行うこと。この場合、全役職員を対象とした貸付に関する内部規定を設けること。」とされています。

このことから、医療法人が役員のみに対し社宅を賃貸することは医療法第42条に抵触することが考えられます。

e-Gov法令検索「医療法第42条」より引用

厚生労働省「医療法人の業務範囲」より引用

(3)医療法第54条

社宅を賃貸するにあたり、医療法第54条(医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。)における配当禁止規定も考慮する必要があります。

社宅の賃貸は、配当類似行為に該当するものと考えられます。例えば、東京都は医療法第54条の剰余金配当の禁止におけ剰余金の配当にみなされる例として「役員等特定の人のみが居住する社宅の所有又は賃借」を明記しています。

e-Gov法令検索「医療法第54条」より引用

東京都福祉保健局医療政策部医療安全課医療法人担当「医療法人制度の概略 令和5年度版」P.17参照

2. 税法の取扱い

医療法人が役員社宅として住宅を貸与し、役員から1か月あたり一定額の家賃(以下、「賃貸料相当額」といいます。)を受け取る場合、その役員は経済的利益について給与として課税されません。

医療法人は、社宅の維持管理費用(修繕費や固定資産税など)を負担することになりますが、これらは医療法人の損金に算入します。

役員が医療法人に支払う家賃が、所得税法上の「賃貸料相当額」以上の場合には、役員に対する経済的利益はないものとみなされ給与として課税されることはありません。この賃貸料相当額は、住宅の規模によって計算方法が異なります。

(1)小規模な住宅の場合

・要件

小規模な住宅に該当するかどうかは、その建物の法定耐用年数によって以下のとおり床面積の上限が定められています。

①法定耐用年数が30年以下の建物の場合には、132㎡以下

②法定耐用年数が30年を超える建物の場合には、99㎡以下

・賃貸料相当額

次の①から③までの合計額が賃貸料相当額になります。

①その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%

②12円×その建物の総床面積(㎡)÷ 3.3㎡

③その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

(2)小規模な住宅以外かつ豪華社宅に該当しない場合

・要件

上記2.(1)に該当する小規模な住宅以外のもので、かつ、豪華社宅に該当しないものをいいます。豪華社宅とは、床面積が240㎡超又はプール等の設置や役員個人の嗜好を著しく反映した住宅をいいます。

・賃貸料相当額

役員に貸与する住宅が、医療法人所有のもの又は他から借り受けたもののどちらに該当するかにより、賃貸料相当額の算定方法が異なります。

【医療法人所有の住宅の場合】

次の①と②の合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。

①その年度の建物の固定資産税の課税標準額×12%

なお、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には、12%ではなく10%を乗じます。

②その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%

【他から借り受けた住宅の場合】

医療法人が貸主に支払う家賃の50%相当額と上記【医療法人所有の住宅の場合】で算定した賃貸料相当額のいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。

(3)豪華社宅に該当する場合

・要件

上記2.(2)のとおり、床面積が240㎡超又はプール等の設置や役員個人の嗜好を著しく反映した住宅をいいます。

・賃貸料相当額

通常支払うべき使用料(その住宅が一般の賃貸住宅である場合の賃貸料)に相当する金額が賃貸料相当額になります。

国税庁「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」参照

3.さいごに

所得税法上の「賃貸料相当額」以上の賃料で役員社宅を賃貸している場合であっても、医療法により医療法人が役員社宅を賃貸することは医療法の観点から難しいといえます。そのため、医療法人で役員社宅を購入することは慎重に検討すべきと考えられます。

 

(文責:税理士法人FP総合研究所)