【No1008】相続人がいない場合における遺贈と遺贈寄附ついて

令和7年6月に厚生労働省における「人口動態統計月報年計(概数)」にて、令和6年の出生数は過去最少の686,061人(前年比▲41,227人)であり、9年連続減少となったことが発表されました。今後、少子化の進行に伴い相続人がいない方も増える見込みであり、そのような場合における財産の遺し方に悩まれる方も増加することが考えられます。

今回は相続人が不在である場合における財産の遺し方である遺贈と遺贈寄附について基本的な事項をご説明します。

1.相続発生時の原則的取り扱い 

相続発生時に被相続人に相続人や特別縁故者がいない場合、民法951条~959条において相続財産は法人化され、この場合、家庭裁判所は利害関係人などの請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならないこととなっています。清算人により債権者及び受遺者に対して弁済及び支払を行い、それでも処分されなかった相続財産は国庫に帰属すると規定されています。つまり、亡くなった方が生前中に遺言書の作成などにより特定の者に財産を遺すことをしなかった場合、その亡くなった方の所有していた財産は債務返済分を除いてすべて国のもとに収納されることとなります。

2.遺贈について 

自身の財産を法定相続人以外の者に遺す場合、主に遺言書を作成して財産及び受取人を指定する方法、生命保険契約により保険金受取人を指定する方法、信託契約による方法などがあります。今回は遺言書を作成して財産を法定相続人以外の者に遺す遺贈についてご説明します。

(1)遺贈とは

遺贈とは、被相続人の遺言によってその財産を移転することをいい、相続税法では民法に規定する死因贈与(贈与をした人が亡くなることによって効力を生じる贈与)も遺贈と同様に取り扱われます。

(2)包括遺贈と特定遺贈

包括遺贈とは、財産を特定せず、一定の割合(全部や半分など)を与える遺贈をいいます。これに対し、特定遺贈とは、特定の財産を指定して与える遺贈をいいます。

(3)遺贈に係る課税関係

遺言書を作成して財産を法定相続人以外の者に遺す場合、財産を受け取る者(受遺者)が個人であるか法人であるかで課税関係が異なります。

受遺者が個人の場合には、相続税が課されます。また、人格のない社団等が受遺者となる場合も、人格のない社団等を個人とみなして相続税が課されます。

受遺者が法人の場合には、原則として相続税の課されませんが、当該法人は受贈益に対して法人税が課されます。また、遺贈により当該法人の株式の価額が増加した場合、その増加部分について、各株主に相続税が課税される可能性があります。さらに、遺贈された財産が含み益をもつものであった場合、みなし譲渡となり被相続人において所得税が課されることとなり、準確定申告が必要となります。

3.遺贈寄附について 

近年では、慈善団体や非営利団体、地域社会や特定の分野の発展のため、財産を寄付することを希望される方も増えてきています。具体的には、学校法人、公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、宗教法人など(公益法人等)を寄附先に選ばれることがあり、この場合の課税関係と注意点をご説明します。

(1)遺贈寄附の税務上の取り扱い

法人への遺贈寄附は上記2(3)に記載の遺贈の課税関係となり、相続税の課税対象にはなりませんが、寄附を受けた法人に受贈益が生じ法人税が課されます。しかし、公益法人等が遺贈寄附を受ける行為は、原則としていずれの収益事業にも該当せず、また、収益事業に付随して行われる行為にも該当しないため、受贈益の課税は行われません。

また、財産が含み益をもつものであれば、みなし譲渡による所得税が被相続人に課されます。しかし、公益法人等に寄附した場合には、その寄附が公益に著しく寄与することなどの一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けた時は、この所得税を非課税とする制度があります。

加えて、寄附先が所得税法に定める地方公共団体、特定の公益法人、認定NPO法人の場合には、被相続人の相続発生日の属する年分の所得税の申告(準確定申告)において、寄附金控除(総所得金額の40%相当額から2,000円を控除した金額を上限とした所得控除)の適用を受けることも可能となります。

(2)遺贈寄附の注意点

公益法人等への遺贈寄附を検討される際には以下の点に注意する必要があります。

①寄附先が受け入れ可能な財産かどうか

寄附するものが現預金であれば寄附先も受け入れは容易ですが、現預金以外の不動産や有価証券などの寄附を検討している場合には、検討している財産が受け入れ可能かを事前に確認しておく必要があります。

②みなし譲渡と所得税の負担

寄附する不動産や有価証券などの相続発生時の時価が、取得時の価額より高い場合に、時価と取得価額の差額が譲渡益となり、被相続人に所得税が課されます。この被相続人に対する所得税は、基本的に相続人が負担することとなります。そのため、相続人が負担する所得税の納税資金を、他の財産または生命保険金で確保しておく配慮が必要と考えます。

4.おわりに 

以上、遺贈と遺贈寄附に関し基本的な事項のご説明をしました。遺贈や相続財産の寄附についてはその形態により大きく課税関係がかわりますので、遺言を作成される際には税理士などの専門家にご相談をいただき、実情を汲んだ具体的な説明を受けたうえでご検討いただくことをお薦めします。

(文責:税理士法人FP総合研究所)