【No1018】フリーレントの按分計算に係る 法人借主の税務処理の明確化

オフィスや店舗の賃貸契約で導入されることが多い「フリーレント」。フリーレントとは、契約開始から一定期間、賃料の支払いが免除される契約形態です。貸主が単純な賃料値下げではなくフリーレントを選ぶのは、入居初期の負担を軽減して借主を誘致しやすくする一方で、表面上の賃料水準を維持し、資産価値や利回りを下げないためです。従来、法人税務ではフリーレント期間は損金算入できませんでしたが、今回の通達改正(新設:法人税基本通達12-5-3-2)により、法人借主契約賃料の総額をフリーレント期間も含めた契約期間で均等按分し、損金算入する方法を選択できることが明確化されました。

1.改正の概要

令和7年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税基本通達12-5-3-2が新設され、フリーレント付き賃貸借契約における法人借主の損金算入方法が明確化されました。
従来は「実際に支払が生じた月ごとの損金算入」に限られていましたが、今回の通達改正で「契約期間全体での均等按分」が条件付きで認められました。

(注) 所得税の改正はないため、個人借主においては従前どおり(按分不可)です。

2.改正の趣旨

従来の取扱いでは、フリーレント期間は支払がないため損金ゼロ、その後の期間に賃料が偏って損金算入されていました。
一方、会計処理において発生主義に基づき契約期間全体で均等に費用化する方法を採用した場合、会計と税務との間で不一致が生じていました。今回の通達改正は、このギャップを解消し、会計と税務の整合性を図ることを目的としています。

3.法人借主で按分計算の選択が可能に

改正後、法人借主は以下の2つの方式から選択可能となりました。

(1)実際の支払月ごとに損金算入(従来どおり)フリーレント期間は損金ゼロ

(2)契約期間全体に按分する方式(改正により新設)
契約上の賃料総額を契約期間で均等に按分し、フリーレント期間にも損金算入
※ 適用には「帳簿上も均等額で経理していること(損金経理)」が条件となります。

4.具体例と経理処理(2年契約・フリーレント3か月)

契約例 : 契約期間:24か月、うち フリーレント:3か月月額賃料:800,000円

契約期間の賃料総額:800,000円 × 21か月 = 16,800,000円
契約期間全体に按分後の月額賃料16,800,000円 ÷ 24か月 = 700,000円

(1)フリーレント中の月(例:1か月目~3か月目)

借方:地代家賃 700,000 / 貸方:未払費用 700,000

(2)支払が発生している月(例:4か月目~24か月目)

借方:地代家賃 700,000 / 貸方:現金預金 800,000

借方:未払費用 100,000

5.課税上の「弊害」がある場合(按分不可)

次の様に「賃料の減額が大きすぎる場合」又は「フリーレント期間が長すぎる場合」は、課税上「弊害がある」とされ、契約期間全体に按分する方式は選択できません。

(1)仮に、フリーレントの定めがないとした場合に比べて、賃料総額が20%を超えて減額されている場合
例:通常総額10,000,000円に対し、フリーレント付与後の総額が7,800,000円など

(2)フリーレント期間が4か月を超える契約であって、その無償等期間に日がかかる各事業年度のうちいずれかの事業年度において、その年度における賃借期間の5割を超える期間が無償又は通常に比して少額になると見込まれる場合

例:3月決算法人において、7月から賃借期間が開始し、フリーレントが5か月ある場合

この年度の賃借期間は9か月、そのうち5か月がフリーレント 5か月/9か月 ≒ 55.6% > 50% → 按分不可

6.消費税との関係

法人税については、今回の通達改正により契約期間で均等に損金算入する按分方式を選択することが可能となりました。これに対して、消費税は役務提供を受けた月ごとが課税仕入れの時期とされています。したがって、フリーレント期間中は実際に賃料の支払いがないため課税仕入れは発生せず、消費税の仕入税額控除の対象にはなりません。一方で、賃料の支払いが発生する月については、その支払額に対応する消費税を控除することができます。この結果、法人税と消費税の取扱い時点に不一致が生じますので、税務処理にあたっては注意が必要です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)