【No1022】マンション建替事業の権利変換に伴う課税上の留意点について

国土交通省のデータによると、築40年以上のマンションは年々増加しており、マンションの老朽化が社会問題となっています。それに伴い、古いマンションを建て替えるケースが年々増えてきていますが、今回は権利変換方式によりマンションを建て替えた場合の課税上の留意点を説明します。

(1)マンション建替事業の権利変換方式とは

マンション建替事業の権利変換方式とは、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」に基づき、旧マンションに係る権利(区分所有権、抵当権等)を新しいマンションの権利に置き換える建替え手法のことをいいます。

権利変換方式の大きな特徴は、マンション建替組合等が権利変換計画を作成し、行政の認可を得て、旧マンションに係る権利を新マンションに公正に、かつ、強制力をもって行われる点になります。

(2)マンション建替事業の権利変換に伴う税務上の留意点

① 権利変換を受けた場合(新マンションを取得する場合)

【個人所有の場合】

権利変換によって旧マンションから新マンションに権利を移行された場合、原則として旧マンションの譲渡はなかったものとみなされ、譲渡所得税は課税されません(課税の繰り延べ)。ただし、新マンションの権利価額よりも旧マンションの権利価額の方が大きく、建替組合等から清算金を受領した場合には、その清算金に対応する部分は譲渡があったものとみなされ、譲渡所得として課税対象となります。

また、ご自宅として利用されていた場合には、居住用財産の3,000万円特別控除の適用を受けることが可能です。

賃貸の用に供していた場合は、権利変換期日をもって旧マンションは建替組合等の所有となるため、その日までの減価償却費を月割計算にて不動産所得の計算上、必要経費に算入できます。ただし、譲渡はなかったものとみなされるため、未償却残高を除却損とすることはできません。

【法人所有の場合】

権利変換期日をもって建替組合等に旧マンションを譲渡したことになり、その際に旧マンションの帳簿価額が建替組合等が評価した権利評価額を下回る場合には譲渡益が生じます。ただし、譲渡益と同額の圧縮損を計上することができるため、譲渡所得を生じないようにすることが可能です。(措置法65条第1項第六号)

※圧縮損を計上するためには建替組合等が発行する証明書の保管が必要です。

② 権利変換を受けずに転出された場合

【個人所有で転出された場合】

権利変換日をもって旧マンションを譲渡したことになり、確定申告が必要になります。その際、長期譲渡所得に該当する場合は、譲渡所得の2,000万円以下の部分に対して軽減税率の適用があります。また、転出者がやむを得ない事情(※)で転出する場合には、譲渡所得に対して1,500万円の特別控除を受けることが可能です。

なお、ご自宅として利用されていた場合は、居住用財産の3,000万円特別控除も利用できるため、有利な方を選択して申告することになります。また、その年の1月1日において所有期間が10年を超える居住用財産に該当する場合には、居住用財産の税率軽減の適用もあります。

※「やむを得ない事情」とは、老齢や身体上の障害のため、新マンションで生活ができない場合等をいいます。

【法人所有で転出された場合】

権利変換日をもって旧マンションを譲渡したことになり、法人税の計算上、通常の不動産の譲渡と同様の会計処理となります。

(3)まとめ

権利変換を受けた場合には課税は繰り延べられることになりますが、清算金を受領したときは確定申告が必要となるため、建替組合等からの案内を確認したうえで確定申告が必要かどうかご確認いただくことが肝要です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)