【No1027】遺言による寄附と相続財産の寄附
令和7年3月に日本公証人連合会より公正証書遺言の作成件数が公表され、令和6年では128,378件と、平成27年以降の過去10年間で最も多い件数となりました。令和7年10月より公正証書遺言の作成手続きがデジタル化され、公正証書遺言に関する関心や必要性が高まっていると考えられます。また、少子高齢化や生涯未婚率の上昇などの理由により相続人がおらず、公正証書遺言で財産を寄附するケースも増えています。今回は、遺言により寄附(遺贈寄附)した場合と、相続人が相続した財産を寄附した場合の、税務上の取扱いをご説明します。
1.遺言による寄附(遺贈寄附)
遺言による寄附(遺贈寄附)とは、公正証書遺言や自筆証書遺言などによって、自分の財産の全部又は一部を国や地方公共団体、NPO法人、公益法人や学校法人などの民間非営利団体などに寄附することをいいます。
遺言による寄附(遺贈寄附)の場合、被相続人の意思による寄附のため寄附者は被相続人となり、その財産は遺言の効力発生時より法人に帰属したものとみなされます。
(1)相続税の取扱い
相続税は個人が相続又は遺贈によって財産を取得した場合に課される税であることから、原則として法人に納税義務は発生しません。そのため、遺言による寄附(遺贈寄附)の場合には、寄附を受けた法人に相続税は課税されません。
ただし、相続税の負担を不当に減少する結果となると認められる場合には、法人を個人とみなして法人にも相続税が課税されることがあります。
(2)所得税の取扱い
寄附先が国・地方公共団体や特定公益増進法人、認定NPO法人などの場合には、寄附金控除の適用があります。
被相続人が寄附者であることから、被相続人の準確定申告で寄附金控除を適用します。
2.相続した財産を相続人が寄附した場合
相続した財産を相続人が寄附した場合において、寄附者は相続人本人となります。被相続人の生前中の遺志を汲んで寄附することもありますが、遺言のような法的強制力はないため、相続人からの寄附として取り扱います。
(1)相続税の取扱い
相続人がいったん財産を相続するため、原則として財産は相続税の課税対象となります。
ただし、相続または遺贈により取得した財産を、下記のような一定の要件を満たして寄附した場合には、寄附した財産は相続税の課税対象から除外され、相続税は課税されません。
(イ)寄附した財産は、相続や遺贈によって取得した財産であること。
(ロ)その取得した財産を相続税の申告書の提出期限までに寄附すること。
(ハ)寄附した先が、国・地方公共団体などの特定の公益法人であること。
(2)所得税の取扱い
寄附先が国・地方公共団体や特定公益増進法人、認定NPO法人などの場合には、寄附金控除の適用があります。
相続人が寄附者であることから、相続人の寄附をした年の確定申告で寄附金控除を適用します。
3.不動産や株式を遺贈寄附した場合におけるみなし譲渡所得税の負担について
相続税を計算する場合において、寄附財産が現金なのか、不動産や株式なのかによって課税関係に違いはありませんが、所得税については大きな違いがあります。不動産や株式などの財産を遺贈寄附した場合において、その財産に含み益がある場合にはみなし譲渡所得税が課税されることになります。(国や地方公共団体などに対する寄附の場合には、みなし譲渡所得税が課税されない場合もあります。) この場合におけるみなし譲渡所得税に係る納税については、その遺贈寄附が「包括遺贈」なのか、「特定遺贈」なのかにより異なります。
(1)「包括遺贈」の場合
「包括遺贈」とは、被相続人の個々の財産を特定しないで遺贈の対象とすることです。この場合に包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有することとなり、被相続人の積極財産だけではなく消極財産も承継することになるため、その寄附を受けた包括受遺者が納税義務者を負うことになります。
(2)「特定遺贈」の場合
「特定遺贈」とは、被相続人の個々の財産を特定して遺贈の対象とすることです。特定受遺者は、被相続人の特定財産のみを承継するにとどまり、相続人または包括受遺者のように被相続人の一切の権利義務を包括的に承継するものではありません。このため、被相続人に係る債務や税務上の納税義務を承継することはありません。特定遺贈の場合、みなし譲渡所得税など被相続人に生じる納税義務は、包括承継者である相続人が承継するのが原則です。したがって、含み益のある財産の寄附を受けた特定受遺者は納税義務者とはならず、その財産を受け取っていない相続人がみなし譲渡所得税の納税義務を負うことになります。
このような相続人への負担を避けるため、遺言書には、遺贈に伴い相続人が負担することとなった税金分については相続人に留保する旨の条項を付記し、相続人に実質的な負担が生じないよう配慮することが望まれます。
(文責:税理士法人FP総合研究所)