【No1028】賃貸用不動産の評価方法の見直し案について
令和7年11月26日に自民党の税制調査会が開いた会合で、令和8年度税制改正大綱の取りまとめに向けて議論が行われました。そのうち、相続税関係では、相続開始前又は贈与前5年以内に賃貸用不動産を取得した場合には、原則、取得価額に基づき評価する見直し案が検討されていることが明らかにされましたので、今回はその見直し案についてご紹介します。
1.改正趣旨
・貸付用不動産の市場価格と通達評価額との乖離を利用して相続税額・贈与税額を大幅に圧縮している事例が把握されている。
・納税者の予測可能性を確保しつつ※、評価の適正化及び課税の公平性を図る観点から、賃貸用不動産の評価方法について書用の見直しを行う。
※財産評価基本通達では、同通達に定める原則的な方法により評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価することとしているが、これを多用すると納税者の予測可能性が損なわれるとの意見もある。
2.財産評価基本通達の評価方法
(1)貸家建付地
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自用地としての評価額 - その自用地としての評価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合 ○自用地としての評価額 路線価方式又は倍率方式により評価します。 ○借地権割合 国税庁が公表しているものとなり、ホームページで確認ができます。 ○借家権割合 国税庁が公表しているものとなり、その割合は30%となります。 ○賃貸割合 賃貸割合は、その貸家に係る各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分をいう。以下同じ)がある場合に、その各独立部分の賃貸状況に基づいて、次の算式により計算した割合によります。 (A)のうち課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計 当該家屋の各独立部分の床面積の合計(A) |
(2)貸家
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自用家屋としての評価額 - その自用家屋としての評価額 × 借家権割合 × 賃貸割合 ○自用家屋としての評価額 固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額により評価します。 ○家権割合、賃貸割合は上述のとおり |
3.相続税額等を大幅に圧縮している事例
・被相続人は、相続開始の約2年8か月前に賃貸用マンション(1棟)を21億円で購入
・通達評価額は4億2,000万円(購入価額より80%減)
・マンション購入のための借入金残高を債務控除
4.上記の事例等を踏まえた見直し案
被相続人又は贈与者が、相続開始前又は贈与前5年以内に対価を伴う取引により取得した賃貸用不動産については、通常の取引価額に相当する金額(原則、取得価額を基に算定)によって評価する。
・減価償却(定額法)による減価を反映するなど、各不動産の実態に即して評価
・取得価額を基に評価額を算定する場合には、原則、取得時から課税時期までの地価変動の影響等を加味するとともに、評価の安全性を考慮(斟酌割合「0.8」)
・マンション通達の対象となる不動産のうち貸付用のものは、今回の見直しの対象
・今回の見直しによる通達の改正(公開)日までに、被相続人又は贈与者が同日の5年前から所有している土地の上に家屋を新築・建築中の場合には、従前のとおり評価
5.まとめ
今回、相続対策として駆け込み(5年以内)で取得した場合、路線価等による評価額ではなく、取得価額に基づき評価する案が公表されました。令和4年4月19日の最高裁判決でも財産評価基本通達による評価額が否認された事例がありますので、早めに相続対策をしておくことをお勧めします。
(文責:税理士法人FP総合研究所)