【No1048】法人役員である個人事業主等の社会保険適用基準が明確化されました

~実態を伴わない「形だけの加入」には是正のメス~

令和8年3月18日、厚生労働省より「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」という通知が発出されました。

これまで、個人事業主等が形式的に法人の役員に就任し、極めて低い報酬を設定することで社会保険料を抑えるといった手法が見られましたが、今回の通知はこうした「実態を伴わない加入」を厳しく制限する方針を明確に打ち出すものとなっています。

1.改正の背景と政府の狙い

今回の通知が発出された最大の理由は、社会保険制度の根幹である「負担の公平性」を維持することにあります。

社会保険料削減スキームの蔓延

近年、個人事業主やフリーランスを便宜上「法人の役員」として登録し、極めて低い役員報酬を設定することで、本来負担すべき国民健康保険料や国民年金保険料を回避する手法が一部で広まっていました。

厚生労働省の調査によれば、役員報酬を支払う一方で、それ以上の金額を「会費」等の名目で法人側へ支払わせている不適切な実態が確認されています 。

政府の狙い:実態のない適用の排除

政府の狙いは、以下の点に集約されます。

・公平性の確保:本来、国民健康保険・国民年金に加入すべき者が、実態を伴わずに社会保険へ加入し、不当に低い保険料で給付を受けることを防ぐ。

・基準の明確化:現場の判断を統一し、遺漏のない取り扱いを徹底する。

・不適切事例の是正:実態のない被保険者資格については、遡って喪失させるなどの厳格な対処を行う。

2.「役員=社会保険加入」とは限らない

健康保険や厚生年金に加入できるのは、本来その法人から「労務の対価」として適切な報酬を受け、経営に参画している方に限られます。今回の通知では、役員であっても以下の「2つの実態」が伴わない場合は加入が認められないと再定義されました。

・業務の実態: 法人の経営に対する参画を内容とする、経常的な労務の提供であるか。

・報酬の実態: その業務の対価として、法人から経常的に(継続して)支払いを受けるものであるか。

3.「不適切」と判定される可能性が高いケース

今後は、形式的に役員登記がされていても、以下のような実態がある場合は社会保険の適用を受けられない(資格喪失となる)恐れがあります。

・名目上の業務: 単なるアンケート回答や勉強会への参加、知人の紹介や情報提供のみを行っている場合。

・報酬の逆転現象: 法人から受け取る役員報酬よりも、その法人(または関連団体)へ支払う「会費」や「寄付金」の方が多い場合。

・権限の欠如: 指揮監督権や決裁権がなく、定期的な会議への出席頻度も低いなど、経営実態が乏しい場合。

4.社会保険の資格が取り消された場合のリスク

「うちは大丈夫だろう」と思っていても、もし年金事務所の調査などで不適切だと判断された場合、会社にも個人にも非常に大きなペナルティが待ち受けています。

・過去に遡って資格が取り消される

強制的に社会保険の資格喪失届を提出させられます。

・多額の出費と手間が発生する

過去(一般的に最大2年間)に遡って、本来加入すべきだった国民健康保険料や国民年金保険料を一括で納付しなければならなくなる恐れがあります。

5.まとめ

「社会保険料を抑えられる」といった安易なスキームの利用は、法制度に抵触するだけでなく、後々の経営に大きな支障をきたす可能性があります。

特に、個人事業主の方が同族法人等の役員を兼ねているケースでは、今一度「その業務内容に見合った報酬体系か」「経営への参画実態があるか」を客観的に見直しておくことが重要です。

適切な制度運用を維持し、将来的なリスクを回避するためにも、現在の加入状況に少しでも不安を感じられる場合は、専門家へのご確認をお勧めいたします。

(文責:税理士法人FP総合研究所)