【No855】成年年齢引下げによる結婚・子育て資金の一括贈与の特例への影響

 令和 4 年 4 月 1 日に民法改正が施行され、成年年齢が現行の 20 歳から 18 歳に引き下げられました。
 今回は、「結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の特例」を取り上げ、その内容についても改めて解説します。

1.結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の特例の内容

(1)概要

 平成 27 年 4 月 1 日から令和 5 年 3 月 31 日までの間に、20 歳以上 50 歳未満の方(以下「受贈者」といいます。今回の民法改正により 18 歳以上となります。)が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(父母や祖父母など。以下「贈与者」といいます。)から信託受益権を付与された場合、書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合または書面による贈与により取得した金銭等により証券会社等で有価証券を購入した場合には、信託受益権または金銭等の価額のうち 1,000 万円(結婚に関して支出する費用については 300 万円)までの金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することにより贈与税が非課税となります。
 なお、平成 31 年 4 月 1 日以後に行う贈与から、前年の受贈者の合計所得金額が 1,000 万円を超える場合には、この非課税制度は適用を受けることはできないため注意が必要です。

(2)結婚・子育て資金口座の開設

 この非課税制度の適用を受けるためには、結婚・子育て資金口座の開設等を行った上で、結婚・子育て資金非課税申告書をその口座の開設等を行った金融機関等の営業所等を経由して、信託や預入などをする日(通常は結婚・子育て資金口座の開設等の日となります。)までに、受贈者の納税地の所轄税務署長に提出等をしなければなりません(結婚・子育て資金非課税申告書は、金融機関等の営業所等が受理した日に税務署長に提出されたものとみなされます。)。なお、結婚・子育て資金非課税申告書は、原則として、受贈者が既に結婚・子育て資金非課税申告書の提出等をしている場合には提出等をすることができません。

(3)結婚・子育て資金口座からの払出し及び結婚・子育て資金の支払

 結婚・子育て資金口座からの払出し及び結婚・子育て資金の支払を行った場合には、結婚・子育て資金口座の開設等の時に選択した結婚・子育て資金口座の払出方法に応じ、その支払に充てた金銭に係る領収書などその支払の事実を証する書類を、次の①又は②の提出期限までにその金融機関等の営業所等に提出する必要があります。
 ① 結婚・子育て資金を支払った後にその実際に支払った金額を口座から払い出す方法を選択した場合
  →領収書等に記載された支払年月日から1年を経過する日
 ② ①以外の方法を選択した場合
  →領収書等に記載された支払年月日の属する年の翌年3月 15 日

(4)契約期間中に贈与者が死亡した場合

 契約期間中に贈与者が死亡した場合には、死亡日における非課税拠出額(非課税申告書に記載された金額)から結婚・子育て資金支出額を控除した残額(以下「管理残額」といいます。)を、贈与者から相続等により取得したこととされます。この場合、相続税課税になることから、例えば贈与者が祖父母、受贈者が孫の場合、孫についても相続税が課税されるとともに相続税額の 2 割加算の対象となります。

(5)受贈者が 50 歳に達するなどにより結婚・子育て資金口座に係る契約が終了した場合

 受贈者が 50 歳に達することなどにより、結婚・子育て資金口座に係る契約が終了した場合には、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときは、その残額はその契約終了時に贈与があったこととされますので、契約終了した日の翌年に贈与税の申告書を提出する必要があります。

(6)結婚・子育て資金の範囲

 結婚・子育て資金とは、次に掲げる金銭をいいます。
①  結婚に際して支払う次のような金銭(300 万円を限度とします。)をいいます。
(イ)挙式費用、衣装代等の婚礼(結婚披露)費用(婚姻の日の 1 年前の日以後に支払われるもの)
(ロ)家賃、敷金等の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)
② 妊娠、出産および育児に要する次のような金銭をいいます。
(イ)不妊治療・妊婦健診に要する費用
(ロ)分べん費等・産後ケアに要する費用
(ハ)子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)

【制度のイメージ図】

《出典:国税庁》

2.民法改正の影響

 令和 4 年 4 月 1 日以後の信託受益権又は金銭等の取得については、受贈者の年齢が 18 歳以上 50 歳未満となります。
 したがって、例えば令和 4 年 3 月 1 日において 19 歳である子については、この特例を利用することはできませんが、令和 4 年 4 月 1 日以降であれば受贈者の年齢が 18 歳以上に該当するため、この特例を利用することが可能です。

3.注意事項

 この制度は一括して結婚・子育て資金を贈与されたい方が利用することとなりますが、本来、生活費や教育費に充てるために必要な都度直接これらに充てるためのものであれば贈与税は課税されることはありません。(ただし、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり、株式や不動産などの購入資金に充てている場合には、贈与税が課税されます。)
 したがって、結婚・子育て資金の贈与を検討されている方で、その都度必要な資金だけを贈与される場合には、この制度を利用されなくても、贈与税の課税の問題は生じませんので、これらの資金をどのように贈与されるか十分に検討していただく必要があります。

(文責:税理士法人FP総合研究所)