【No873】遺贈による寄附と寄附金控除について

 Vol.839において、相続人等が相続や遺贈により取得した財産を、国などに寄附した場合の、その寄附した財産に対する相続税が非課税となることの取扱いを紹介しました。今回は、この寄附に関して、遺言書により寄附する旨の記載があった場合の所得税の取扱いと、その他の留意点について紹介します。

1. 所得税の寄附金控除

 納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合には、所得金額から一定額を控除する所得控除が適用できます。これを寄附金控除といいます。

《特定寄附金》

 特定寄附金とは、次の当てはまるものなどをいい、学校の入学に関するもの、寄附した人に特別の利益が及ぶと認められるもの及び政治資金規正法に違反するものなどは、該当しません。

 (1)国、地方公共団体への寄附金

 (2)公益社団法人、公益財団法人、その他公益を目的とする事業法人または団体に対する寄附金のうち一定のもので、財務大臣が指定したもの

 (3)所得税法別表第一に掲げる法人その他特別の法律により設立された法人のうち、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして、独立行政法人、公益法人などに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(令和3年4月1日以降に支出する出資に関する業務に充てられることが明らかなもの除く)

2. 民法において誰が寄附したものとされるのか

 「遺言者は、包括または特定の名義で、その財産の全部または一部を処分することができる。」(民法964条)とされており、「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。」(民法985条1項)こととなるため、遺言者が死亡した時点で遺言の効力が生じ、寄附したことになります。

 加えて、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」(民法1012条1項)となっており、さらに「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。」(同条2項)とされているため、遺言執行者のみがこの寄附を行うことができます。

 これらの規定から、遺言書による寄附については、相続人が寄附をしたとは考えられず、被相続人が死亡の時に寄附したものと考えられます。

3. 結論

 遺言書により国、地方公共団体等へ寄附した場合には、被相続人(遺言者)の所得税の準確定申告において寄附金控除が適用されることとなります。なお、寄附金控除の対象となる年分は、相続(遺贈)が発生した日の属する年分となります。

4. 留意点

 遺言書で寄附をする場合の留意点は、次のとおりです。

(1)相続税以外の課税の可能性

 遺言書により国、地方公共団体、その他の法人(人格のない社団等及び持分の定めのない法人は除きます。)に寄附する場合には、相続税は課されないこととなっています。よって、Vol.839の相続等により取得した財産を寄附した場合と同様に、相続人等が相続しなかった財産分の相続税は減少することになります。

 しかし、自身で経営する有限会社、株式会社等に寄附する場合には、法人側で受贈益が生じ、法人税の課税される可能性があります。加えて、その法人の株価を上昇させることになり、株主に対しての相続税又は贈与税の課税される可能性があります。

(2)遺贈の放棄による影響

 遺言書により財産を遺贈する旨が記載されていても、受遺者は遺言者の死亡後にこれを放棄することができます。つまり、国、地方公共団体、公益法人等に寄附したいと考えて、遺言書に遺贈の旨を記載していたとしても、受遺者がその財産を取得したくないのであれば、遺贈を放棄することで断ることができます。なお、遺贈の放棄があれば、遺贈の旨が記載されていた財産は未分割財産となり、相続人がその財産を相続し、相続税を課税されることになります。

 これについては、事前に寄附(遺贈)したい先に相談し、財産を受け入れていただけるかを確認しておくことで、相続税課税のリスクを避けられることになります。

 

(文責:税理士法人FP総合研究所)