【No878】小規模宅地等に特例に関する裁決事例

 国税不服審判所が公表している裁決事例の中には、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」に関するものが多数あるように、当該特例の適用可否については税務調査等で指摘のポイントとなりやすい重要な項目です。

 裁決事例は、納税者は、国税不服審判所長の裁決を経ても、なお処分に不服がある場合、地方裁判所へ訴訟を提起することができるため、国税不服審判所の裁決は、納税者に厳しい判断が下されることが多いと言われるものの、小規模宅地等の特例を適用する場合の参考となる裁決事例が多数あります。

 そこで、今回は最近の公表事例の中から、(1)共有で相続した場合の小規模宅地等の適用、(2)区分登記した建物についての小規模宅地等の適用、(3)信託銀行を受託者とする信託財産について小規模宅地等の適用が争われた事例を簡単に紹介します。なお事例の詳細は、国税不服審判所のHP(https://www.kfs.go.jp/service/MP/12/0303000000.html)を参照ください。

1.共有で相続した場合の小規模宅地等の適用(平成27年6月25日裁決)

 本件は、小規模宅地等の特例の適用に当たり、各相続人が、複数の利用区分が存する一の宅地を相続により共有で取得した場合、小規模宅地等の特例を適用できる部分は、対象となる宅地の面積に各相続人(被相続人の一定の親族)が取得した宅地の持分を乗じた面積となることが示された事例です。

※国税庁HP「被相続人の共有する土地が被相続人等の居住の用と貸付事業の用に供されていた場合」参照。

①国税不服審判所の考え方

 被相続人の所有していた宅地について複数の利用区分が存する場合、例えば、対象宅地が被相続人等の居住の用及び同族会社の事業の用のいずれの用にも供されていた場合において、複数の相続人が相続等により対象宅地を共有により取得したときには、対象宅地に対する各相続人の権利は、被相続人等の居住の用及び同族会社の事業の用に供されている部分に相当する宅地のそれぞれに及ぶものと解される。つまり、対象宅地のうち被相続人等の居住の用に供されていた部分及び同族会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地は、相続等により共有持分を取得した各相続人が、被相続人等の居住の用に供されていた部分及び同族会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地を各持分の割合に応じてそれぞれ取得したものであると解される。

②結論(本事例への適用)

 被相続人が所有していた宅地を相続人が共有で取得した場合には、各共有者の権利は単独所有の権利、性質、及び内容と異ならず、共有物全体に及ぶと解されている。また、特定居住用宅地等又は特定同族会社事業用宅地等に該当する各部分は、租税特別措置法施行令(平成25年政令第169号改正前のもの)第40条の2《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第7項又は第11項において、措置法第69条の4第3項第2号又は同項第3号に定める要件に該当する者が相続により取得した持分に応ずる部分とする旨規定されている。そうすると、特定居住用宅地等として本件特例を適用できる部分は、本件被相続人等の居住の用に供されていた部分に相当する本件宅地の面積に、本件配偶者が取得した本件宅地の持分を乗じた面積となり、特定同族会社事業用宅地等として本件特例を適用できる部分は、本件同族会社の事業の用に供されていた部分に相当する本件宅地の面積に、本件子らが取得した本件宅地の各持分を乗じた面積となる。

2.区分登記した建物についての小規模宅地等の適用(平成28年9月29日裁決)

 本件は、小規模宅地等の特例について、建物が区分登記され、各々が独立して生活できる構造になっている場合、被相続人が居住していた当該建物の区分所有に係る部分の敷地が被相続人の居住の用に供していた宅地に当たり、被相続人と生計を一にしていない者が居住していた当該建物の部分の敷地に相当する宅地は、被相続人等の居住の用に供されていた宅地に当たらないと判断された事例です。

①国税不服審判所の考え方

 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲は、相続開始直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族(被相続人等)の居住の用に供されていた宅地等に限られる。建物が1階部分と2階部分がそれぞれ区分登記され、玄関も別々で1階と2階を直接行き来することのできる内階段等もなく、日常生活に必要な台所、浴室、トイレ等の設備も別々に備え付けられていて、各階が独立して生活できる構造になっており、実際の利用状況についても1階部分は被相続人及び弟が居住、2階部分は兄が居住し、また建物に係る電気、ガス及び水道に係る契約も1階部分及び2階部分が別々に契約され、相続の開始前の1階部分の契約者は被相続人、2階部分の契約者は兄であり、使用料を契約者がそれぞれ支払っていたこと、使用料以外の生活費についても、基本的には被相続人と兄が、各自に係る費用をそれぞれ負担していたことが認められる場合、被相続人の居住の用に供していた宅地は、被相続人が居住していた建物の1階部分の敷地に相当する宅地である。被相続人が、平日は自ら費用負担した給食サービスを利用する一方で、週末は、兄の妻が調理したものを食しており、その材料費は兄が支払っていたこと、被相続人が、晩年入退院を繰り返すようになってからは、入退院時の送迎及び入院中の洗濯などの身の回りの世話は、兄及びその妻が行い、治療費については被相続人が自ら支払う一方で、送迎に必要な費用は兄が支払っていたことなどを前提としても、生計を一にしていたとは認められない。

②結論(本事例への適用)

 対象建物はその構造上1階部分及び2階部分に区分でき、それぞれが独立して居住の用に供することができる設備・構造を備えている上、区分登記されていることからすれば、被相続人の居住の用に供されていた「家屋」は、建物の1階部分に限られる。また、実際の生活状況をみても、兄は被相続人と同居していた親族、あるいは生計を一にしていた親族とは認められない。したがって、対象宅地のうち被相続人らの居住の用に供されていた1階部分の敷地に相当する宅地で、被相続人と同居していた弟が相続した部分のみが、特定居住用宅地等として特例の適用対象となり、その他の部分は特例を適用することができない。

3.信託銀行を受託者とする信託財産についての小規模宅地等の適用(平成5年5月24日裁決)

 本件は、信託契約中の土地・建物であっても現に事業の用に供されていないものについては、小規模宅地等に該当せず、また、貸家建付地及び貸家に当たらないとされた事例です。

①国税不服審判所の考え方

 個人が信託受益権を相続した場合、小規模宅地等の特例の適用の取扱いについては、信託受益権の目的となっている信託財産に属する宅地等が、相続開始の直前において被相続人等の事業又は居住の用に供されていた宅地等に該当するものであるときに適用の対象となる。措通69の4─1の2参照。

②結論(本事例への適用)

 土地信託はその実質を見ると、信託報酬を対価として委託者が受託者に土地等の財産の管理及び運用をゆだね、委託者はその運用収益を信託配当として享受するというものであって、土地等を中核とする財産の管理手法の一形態にすぎず、所有者が自ら財産の管理及び運用を行う場合等信託以外の財産管理手法による場合と基本的には異ならないものと考えられる。そうすると、単に信託契約が締結されたことをもって、信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等の取扱いを、所有者が自ら財産の管理及び運用を行う場合の取扱いと異にすべき理由は認められないから、信託財産である対象土地等に係る賃貸借契約が締結されるなど、現実に運用され収益を計上し得る状態にあるか否かを基準として、対象土地等が小規模宅地等の特例に規定する事業用宅地等であるか否かを判断するのが相当である。信託財産である建物1・2階部分については相続開始の直前において被相続人の事業又は居住の用に供されていない以上、特例の適用はない。ただし、建物1・2階部分は事業の用に供されていないが、この部分は自用家屋として、また、この床面積に対応する宅地については自用地として、それぞれ評価すべきである。

(文責:税理士法人FP総合研究所)