【No330】研究開発税制(その4) 試験研究費の税額控除の計算

 研究開発税制は、企業が研究開発を行っている場合、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合を乗じた金額を控除できる制度ですが、計算過程がみえにくい税制です。具体的な事例で、試験研究費の税額控除の額を計算してみましょう!

1.事例会社(その1)の前提条件

① 資本金20,000千円の青色申告法人で中小企業者に該当します。(注1)

⇒中小企業技術基盤強化税制を選択することが可能です。

② 令和2年4月1日~令和3年3月31日の事業年度

③ 当期の試験研究費の額  25,000千円 (うち特別試験研究費の額は0円)

④ 前期以前の試験研究費の額   

・令和 2年3月 決算事業年度の試験研究費の額 23,000千円

・平成31年3月      〃         15,000千円

・平成30年3月      〃         22,000千円

⑤ 売上高

・当期(令和3年3月)の売上高        1,200,000千円

・令和  2年3月 決算事業年度の売上高    1,500,000千円

・平成31年3月      〃        1,300,000千円

・平成30年3月      〃        1,200,000千円

⇒ 当期の売上高と前期末3年間の平均売上金額をもとに平均売上金額を算定します。(事例では13億円)

⑥ 当期の所得に対する調整前法人税額(法人税別表一「2」税額控除等の前) 23,000千円

2.税額計算

① 比較試験研究費の額(注1)を確認します。

上記前提条件④により、前期以前3期分の平均試験研究費、20,000千円となります。

② 増減試験研究費割合(注1)を確認します。

上記前提条件③により、比較試験研究費、20,000千円との差額が増減試験研究費の額となります。

増減試験研究費の額5,000千円と比較試験研究費の額20,000千円により、増減試験研究費割合を出します。

→ 5,000千円÷20,000千円=25% > 8%

③ 増減試験研究費割合が8%を超えていますので、税額控除割合の計算式は以下のとおりです。

12%+(増減試験研究費割合-8%)×0.3 → 12%+(25%-8%)×0.3 = 17.1% (注2)

④ 平均売上金額に占める当期の試験研究費の額の割合(試験研究費割合(注1)が10%を超えるかどうかを確認します。

上記前提条件1.③ ÷ ⑤の平均 = 0.01923076923076 ≦ 10% (注3)

→ 試験研究費割合に基づく、控除上限の上乗せはありません。

⑤ 税額控除の上限(中小法人の場合)

原則:調整前法人税額の25%相当額

特則:試験研究費割合が10%超の場合は10%上乗せ又は増減試験研究費割合8%超で10%の上乗せ→35%

事例:今回は、試験研究費割合が10%未満のため、試験研究費割合による上乗せはありませんが、増減試験研究費割合が8%を超えることによる上乗せを選択できます。

調整前法人税額の35%(25%+10%)となります。上記前提条件1.⓺の35%=8,050千円 

(注1)中小企業者、比較試験研究費の額、増減試験研究費割合、試験研究費割合については、弊所の法人部FPニュース研究開発税制(その3)で用語の確認ができます。

(注2)小数点以下3位未満切捨て、0.17を超える場合は、0.17とします。

(注3)試験研究費割合が10%を超える場合には、控除の上限が上乗せされますが、売上の10%を超える試験研究費を計上できる中小法人は少ないと思われます。

3.法人税額の特別控除額

① 当期税額基準額 (上限額)

調整前法人税額 23,00千円×35%=8,050千円

② 税額控除限度額

試験研究費 25,000千円×17% = 4,250千円

③ 当期税額控除可能額

①、②のうち少ない金額  ∴ 4,250千円

4.事例会社(その2)の前提条件

上記の事例会社その1の条件のうち、以下の要件以外は、すべて同じとします。

③ 当期の試験研究費の額 18,000千円

5.事例会社(その2)の税額計算と控除額

① 比較試験研究費の額 20,000千円 > 当期試験研究費の額18,000千円

② 増減試験研究費は、△ 2,000千円で、増減試験研究費割合 △10% ≦ 8%         

中小法人の場合、増減試験研究費割合が8%以下の場合の税額控除割合は12%となります。

③ 増減試験研究費割合が8%を超えていませんので、控除上限の上乗せはありません。

④ 試験研究費割合が10%を超えていませんので、控除上限の上乗せはありません。

⑤ ③、④により税額控除の上限は原則の調整前法人税額の25%となります。

6.法人税額の特別控除額

① 当期税額基準額 (上限額)

調整前法人税額 23,00千円×25% = 5,750千円

② 税額控除限度額

試験研究費 18,000千円×12% = 2,160千円

③ 当期税額控除可能額

①、②のうち少ない金額  ∴ 2,160千円

(法人税別表六㈨ に基づいて編集)

(注4)令和3年度税制改正により、税額控除割合の計算式が変更となっています。

令和3年度の税額計算では、以下の計算式となります。

①増減試験研究費割合 ≦ 9.4% の場合 ⇒ 12%

②増減試験研究費割合 > 9.4% の場合 ⇒ 12%+(増減試験研究費割合-9.4%)×0.35

法人部FPニュース研究開発税制の概要と見直し(その2)を参照してください。

(文責:税理士法人FP総合研究所)