【No526】年金制度改正の全体像 ~その2 社会保険の加入対象の拡大~

令和7年5月16日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が通常国会に提出され、衆議院での修正のうえ、6月13日に成立しました年金制度改革法について、今回は社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象の拡大について説明致します。

【1】改正の趣旨

中小企業の短期労働者などが、厚生年金や健康保険に加入し、年金の増額などのメリットを受けられるようにするために、社会保険の加入対象が拡大されました。

【2】改正の概要

Ⅰ現行の社会保険の加入対象について

下図のA・Bに該当する事業所及びCのうち任意包括適用を申請した事業所です。

 社会保険に必ず加入することとなるのは、適用事業所に使用される正社員及び以下4つの要件を全て満たす短期労働者です

今回の改正による加入拡大のポイントは以下の3つです。

①短時間労働者の企業規模要件の縮小・撤廃

②短時間労働者の賃金要件の撤廃

③個人事業者の適用対象を拡大

Ⅱ-① 短時間労働者の企業規模要件の縮小・撤廃

企業規模要件を縮小・撤廃し、②の賃金要件の撤廃もあわせて、短時間労働者が週20時間以上働けば、働く企業の規模にかかわらず、社会保険に加入するようになります。

改正の時期は、10年かけて段階的に縮小・撤廃することとしており、勤め先の規模によって変わります。

Ⅱ-② 短時間労働者の賃金要件の撤廃

月額8.8万円以上の要件が撤廃されます。

撤廃の時期は、法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断されます。

Ⅱ-③ 個人事業所の適用対象の拡大

現在、個人事業所のうち、常時5人以上の者を使用する法定17業種の事業所は、社会保険に必ず加入することとされています。

今回の改正では、法定17業種に限らず、常時5人以上の者を使用する全事業種の事業所を適用対象とするよう拡大されます。

ただし、2029年10月施行時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外です。

Ⅲ.社会保険の加入拡大の対象となる短時間労働者の就業調整を減らすための支援策について

社会保険の加入拡大の対象となる短時間労働者を支援するため、特例的・時限的に保険料負担を軽減する保険料調整の措置(負担権限特例措置)が実施されます。

①対象者

従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者であって、標準報酬月額が12.6万円以下である者とします。

②期間

3年間

③支援内容

基本的に、社会保険料は労使折半(事業主と被保険者が半分ずつ負担)ですが、この措置の利用を希望する事業主は、事業主の負担割合を増やし、被保険者の負担を軽減できます。

その際、事業主が追加負担した分については、その全額を制度全体で支援します。

【3】事業主への支援

被用者保険の適用拡大に当たり、労働時間の延長や賃上げを通じて労働者の収入を増加される事業主をキャリアアップ助成金により支援する措置が検討されています。

(令和7年度中に実施、1人当たり最大75万円助成されます。)

【出典:厚生省HP:年金制度改正法が成立しました より】

(文責:税理士法人FP総合研究所)