【No536】非居住者等に対する源泉徴収について

近年、事業者が不動産の売買や賃貸を行う場合において、その取引相手が非居住者または外国法人(以下「非居住者等」)であるケースが増加しています。事業者が非居住者等への不動産の売買代金や賃貸料の支払をする際には、所得税及び復興所得税を源泉徴収して、納付する義務が生じることがあります。

不動産管理会社に言われるがまま事務所の賃貸料の総額を支払っていましたが、実は貸主が非居住者等であったため、源泉徴収が漏れていたというケースが税務調査などで指摘されることがあります。賃貸借契約書(契約の途中で貸主に変更があった場合には覚書や通知書など)の貸主欄をしっかり確認して、貸主が非居住者等の可能性がある場合には管理会社に源泉徴収の要否を問い合わせるなど注意が必要です。

1.源泉徴収義務者

非居住者等に対して、日本国内で源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、原則として、所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。

また、非居住者等に対して国内源泉所得を国外で支払う場合であっても、その支払者が国内に住所もしくは居所または事務所等を有するときは、国内源泉所得を国内において支払うものとみなして、源泉徴収をしなければなりません。

2.源泉徴収をする時期

所得税および復興特別所得税の源泉徴収をする時期は、原則として現実に源泉徴収の対象となる所得を支払う時です。したがって、これらの所得を支払うことが確定していても、現実に支払われなければ源泉徴収をする必要はありません。

(注) 源泉徴収を行う際の「支払」とは、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ、または預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為をいいます。

ただし、一定の場合には、それぞれ一定の日に支払があったものとみなして源泉徴収をします。

3.源泉徴収税額の納付

源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として徴収した日の属する月の翌月10日までに「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」(割引債の償還差益(差益金額)、特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等および源泉徴収選択口座内配当等については、これらの所得についての所得税徴収高計算書(納付書))を添えて納付します。

なお、国内源泉所得の支払が国外において行われる場合で、その支払者が国内に住所もしくは居所を有し、または国内に事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するため、国内において支払われたものとみなして源泉徴収をする場合の所得税および復興特別所得税の納付期限は、事務手続等を考慮して、翌月10日ではなく、翌月末日となっています。

4.源泉徴収の対象となる国内源泉所得とその税率

源泉徴収税額は、国内源泉所得の支払金額に税率を乗じて算出しますが、公的年金などのように支払金額から所定の金額を控除した金額に税率を乗じて税額を算出するものもあります。

非居住者等に対する支払が外貨によっている場合には、円に換算した上で源泉徴収を行うことになります。換算は、支払期日における電信買相場が原則ですが、その支払が著しく遅延していない場合は、現に支払った日における電信買相場によっても差し支えありません。

(1)民法に規定する組合契約等に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生じる利益でその契約に基づいて配分を受けるもの:20.42%

(2)土地等の譲渡対価:10.21%

(ただし、土地等の譲渡対価が1億円以下で、その土地等を自己またはその親族の居住の用に供するために譲り受けた個人から支払われるものについては、源泉徴収は不要です。)

(3)人的役務の提供事業の対価:20.42%

(4)不動産の賃貸料等:20.42%

(ただし、不動産等の賃貸料で、自己またはその親族の居住の用に供するために借り受けた個人から支払われるものについては、源泉徴収は不要です。)

(5)利子等:15.315%

(6)配当等

イ 上場株式等の配当等:15.315%

(注1)発行済株式または出資の総数または総額の3%以上に相当する数または金額の株式または出資を有する非居住者が支払を受ける上場株式等の配当等は除きます。

(注2)上記の「上場株式等」には、公募証券投資信託(公社債投資信託および特定株式投資信託を除きます。)の受益権および特定投資法人の投資口も含まれます。

ロ 私募公社債等運用投資信託等の収益の分配:15.315%

ハ イおよびロ以外の配当等:20.42%

(7)貸付金の利子:20.42%

(8)工業所有権、著作権等の使用料等:20.42%

(9)給与その他人的役務の提供に対する報酬、退職手当等:20.42%

(10)公的年金等:20.42%

(支払われる年金の額から50,000円(年齢65歳以上の場合は95,000円)に年金の額に係る月数を乗じた金額を控除した金額に税率を乗じます。)

(11)事業の広告宣伝のための賞金:20.42%

(支払う金額から50万円を控除した金額に税率を乗じます。)

(12)生命保険契約に基づく年金等:20.42%

(払い込まれた保険料または掛金のうち、支払われる年金の額に対応する部分の金額を控除した金額に税率を乗じます。)

(13)定期積金の給付補てん金等:15.315%

(14)匿名組合契約等に基づく利益の分配:20.42%

5.租税条約の規定による税率の軽減又は免除

日本とその非居住者等の居住地国との間で租税条約が結ばれている場合には、その租税条約に定めるところにより、前記の税率が免除され、または軽減されることがあります。この免除または軽減を受けようとする場合には、支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」等をその国内源泉所得の支払者を経由してその支払者の納税地の所轄税務署長に提出することとされています。

なお、租税条約の適用により、その条約で定められている税率が前記の税率以下となるものについては、復興特別所得税を併せて源泉徴収する必要はありません。

(文責:税理士法人FP総合研究所)