【No539】過去の赤字を活かして法人税負担を軽減する繰越欠損金の戦略的な利用方法
災害等や一時的に発生した多額の繰越欠損金について、通常の利益と相殺することが困難な場合が生じます。そのような場合に期限切れ欠損金が発生しないようにするには、どうすれば良いかを検討していきます。
1.繰越欠損金(欠損金の繰越控除)の考え方
利益を毎年計上しているような法人であっても、景気の低迷や天災などにより、赤字が計上される事業年度もあります。赤字が計上された事業年度には、税金を払う必要が無いのは当然ですが、翌事業年度以降についても、計上された課税所得がその欠損金の範囲内であれば、税金を支払う必要がありません。これを「欠損金の繰越控除」制度といいます。
欠損金の繰越控除を適用できるのは、青色申告書を提出している法人です。欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出していれば、その欠損金は、翌年以降10年(注)の間に計上された課税所得と相殺することが可能です。もし、その10年間のうち、複数の事業年度で欠損金が生じている場合には、早い時期に生じた欠損金額から課税所得と相殺します。
(注)中小法人等以外の法人の欠損金との相殺金額には一定割合の制限があり、平成30年4月1日前に開始した事業年度の欠損金額の繰越期間は9年です。
2.期限切れ欠損金は法人税負担軽減の機会を逃すことになる
ある事業年度に欠損金が生じても、その欠損金が少額であれば、翌年以降10年以内に生じた通常の課税所得と相殺される可能性は高くなります。しかし、天災等により被害を受けると、一時に多額の欠損金が発生することが想定されます。翌年以降10年間に計上される通常の課税所得(利益)では、相殺しきれない欠損金が発生する場合も想定されます。欠損金が10年以内に課税所得と相殺しきれずに期限切れになってしまうと、税負担を軽減する機会を永久に放棄することになってしまいます。したがって、欠損金が期限切れになることを避けることが重要となります。
3.繰越欠損金を期限切れにしない方法
「当期で繰越欠損金が期限切れになってしまう。けれど、当期計上される通常の利益では、期限切れ欠損金の全てと相殺することができない」そんな場合にはどうすれば良いでしょうか?結論を言えば、欠損金が期限切れにならないように、通常計上される利益とは別に、何らかの利益を計上させれば良いのです。では、どのような手段が有るでしょうか。
① 役員給与を減額させる
人件費の中で、社長が比較的自由に調整できるのは、家族役員の給与です。この役員給与を減額することにより利益を増加させます。ただし、役員給与の支給額の改定は、原則して定時株主総会でしか行えません。事業年度の途中で支給額を何度も変更することができませんので、あらかじめ、事業年度開始時点で利益を予測して行動しておくことが必要です。
② 減価償却費を計上しない
減価償却費の計上を抑え、経費を圧縮することで利益を増加させます。減価償却費の計上は、償却限度額の範囲内で会社の任意の金額を計上することが可能です。
③ 役員借入金の債務免除を実施する
役員からの借入金がある会社はその役員からの債務の免除を行ってもらい、債務免除を受けることにより、会社で「債務免除益」が発生させ利益を増加させることが可能です。ただし、債務免除を行った役員が株主であった場合には、他の株主へのみなし贈与に該当する場合が有りますので、債務免除を行う際には十分注意が必要です。
④ 含み益を実現させる
会社所有の土地や建物などの固定資産、あるいは、売却が可能な有価証券の中には、現在の価格が帳簿上の価格を上回り、含み益を保有している資産があります。このような資産を売却することにより、含み益を実現させ、会社の利益を増加させることが可能です。
(文責:税理士法人FP総合研究所)