【No580】令和8年度「処遇改善加算の期中改定」を活用した介護事業所の最低賃金対策について

厚生労働省は令和8年(2026年)9月3日、今年度の地域別最低賃金の改定額を取りまとめました。今年度の引き上げ幅は56円増の全国加重平均1,177円となり、過去2番目の大幅改定として10月1日より順次施行されます。その背景には、ここ数年続く物価高騰への対応、深刻な人手不足の解消、全産業平均と比べて低い水準にある介護業界などの他産業との格差を緩和などの政府の狙いがあります。

これに伴い、通常3年ごと(令和9年度予定)の介護報酬改定を前倒し(令和8年度の期中改定)が実施されました。介護事業所の今回の改定の「加算の「傾斜配分」」の活用と注意点についてまとめてみました 。

1. 【最低賃金改定】全国平均1,177円へ、フルタイムで「月約9,000円増」の衝撃

厚生労働省公表データ

(1)主要都道府県の改定額(令和8年10月1日より順次発効)

東京都: 1,280円
大阪府: 1,231円
神奈川県: 1,225円
愛知県: 1,195円
全国加重平均: 1,177円(前年度比+56円)

(2)現場への実質的なコストインパクト

本年度の最低賃金改定は、介護事業所の経営・給与体系に極めて大きな影響を与えます。全国加重平均56円の引上げとは、フルタイム労働者(月160時間換算)1人あたり月額およそ9,000円の強制的なベースアップを意味することとなり、経営者は資金繰り等の見直しを余儀なくされます。

(3)今後の見通し

政府は「全国加重平均1,500円」の達成を目標に掲げており、来年(令和9年度)の定例報酬改定時も含め、今後も大幅な引き上げ傾向が継続する見込みのため、今後の情報に留意しつつ、人件費の長期的な計画についても検討しましょう。

2. 【処遇改善加算の期中改定】異例の前倒し実施と「対象職種拡大」の狙い

本来の3年周期(次回は令和9年度)を待たずに前倒しで実施された「期中改定」は、大幅な最低賃金引き上げと他産業への人材流出に対する防衛策として位置づけられています。

(1) 改定の背景(他産業との賃金格差)

役職者を除く全産業の平均賃金(約39.6万円)に対し、介護職の平均賃金(約31.4万円)には約8.2万円の格差が存在します。この構造的格差を是正し、慢性的な人材不足を解消することが急務とされました。 (令和8年春に厚生労働省から公表された「令和7年の賃金構造基本統計調査」により)

(2) 対象職種の抜本的拡大

これまでの「介護職員中心」の配分ルールが撤廃されました。看護職員、ケアマネジャー、リハビリ職、相談員、事務職員など、事業所を支えるすべての職種(全介護従事者)へ加算の配分が可能となりました。

(3) 対象サービスの追加

居宅介護支援(ケアマネ事業所)、訪問看護、訪問リハビリテーションが新たに加算対象として追加され、在宅ケアを支える職種の処遇改善が制度化されました。

(4) 賃上げ規模

加算の「新区分(Ⅰロ・Ⅱロ)」などの活用により、事業所内での定期昇給分と合わせて最大で一人あたり月額1.9万円の賃上げを可能とする仕組みが整備されています。

3. 新しい処遇改善加算を活用した給与のベースアップについて

10月からの最低賃金改定に伴い、事業所も安定して運営を続けられるよう、今回から対象が広がった「新しい加算」を、それぞれの状況に合わせたバランスの良い給与の引き上げ(傾斜配分)を行うことが重要となります。

(1) パート・他職種の給与一斉点検(至急)

無資格のパート職員、調理・清掃スタッフ、事務職などの現在の時給・基本給(毎月固定の処遇改善手当を含む)を算出します。10月発効の都道府県別最低賃金を下回るスタッフを速やかに特定する必要があります。

(2) 新しい加算を活用したバランスの良い配分(底上げ)

今回の制度改定により、これまで対象外だった職種も含め「事業所を支えるすべてのスタッフ」に加算を配分できるようになりました。 この新しい加算枠につきましては、今回の最低賃金引き上げの対象となる方々へ優先的かつ手厚く配分(傾斜配分)をし、事業所の安定した運営を維持しながら、スタッフ全員の無理のない確実なベースアップを実現していくことが重要となります。

4. 給与設計・運用時の重要な注意点

(1) 加算分は「毎月の給与」への上乗せを大原則とする

処遇改善加算は、スタッフの安定的な収入ベースを引き上げることが本来の目的であるため、基本給や毎月固定の手当など「毎月の給与」での支給が基本となります。賞与や一時金(決算手当など)での支給は、あくまで受給した加算額を残さず配分しきるための「最終的な調整手段」として活用し、また、受給した加算額は規定の期間内(年度内等)に全額を配分・支給完了させることが必須要件ですので、配分漏れがないよう年間の支給計画をしっかり立てましょう。

(2) 社会保険料の負担増への備えと「会社負担分」の計上ルールの活用

給与や一時金を上乗せして支給すると、それに伴って社会保険料(健康保険・厚生年金など)の等級が上がり、会社・従業員双方の保険料負担が増加します。 ここで重要になるのが、「賃上げによって増加した社会保険料の会社負担分(法定福利費の増加分)」は、加算の「賃金改善額」として計算に含めることが国から認められているという点です。これを正しく算出して実績報告に計上することで、法人の実質的な負担(持ち出し)を適切に軽減することができます。 同時に、スタッフに対しては「額面給与が上がると社会保険料も上がるため、手取り額がそのまま全額増えるわけではない」という点を事前にしっかり説明しておくことが、後々のトラブル防止に繋がります。

(3) 現場の不満を防ぐ「透明性・納得性の高い」制度設計と丁寧な説明

今回の加算枠を、最低賃金ギリギリのパート層などに優先して割り振る「傾斜配分」を行う場合、これまで加算を多くもらっていた既存の介護スタッフから「自分たちの取り分が減った」「不公平だ」と不満が出るリスクがあります。 これを防ぐためには、経営陣だけで決定・処理するのではなく、「なぜ今回このような配分ルールにしたのか(法令順守と、事業所全体で皆の雇用を守るため等)」という背景を全スタッフに丁寧に説明し、周知することが不可欠です。あわせて給与規程等の見直しを行い、誰もが基準を確認できる、透明性の高い制度設計を心がけましょう。

(文責:税理士法人FP総合研究所)