【No382】賃金引上げの支援策
令和7年10月より、各都道府県において最低賃金の改定が行われる予定です。賃金引き上げは医療機関にとって費用の増加となり経営を圧迫する一つの要因となります。そこで、今回の医業経営FPNewsでは厚生労働省が公表している賃上げを実施した事業主に対する各種支援策のご案内をします。なお、制度の詳細については各リンク先をご確認ください。また、最低賃金の改定については医業経営FPNewsNo.379において触れておりますので、併せてご確認をお願いします。
1.働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース(病院等))
(1)制度の概要
生産性を向上させ、労働時間の削減や医師の働き方改革の推進等に向けた環境整備に取り組む、医業に従事する医師を雇用する中小企業事業主を支援する制度です。
(2)対象事業主
①労働者災害補償保険の適用を受ける医業に従事する医師が勤務する病院、診療所、介護老人保健施設
又は介護医療院を営む中小企業事業主(※1)であること。
②年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。
③交付申請時点で、36協定を締結していること。
(※1)中小企業事業主の範囲
以下のいずれかの要件を満たす企業が中小企業になります。
・資本または出資持分が5,000万円以下
・常時使用する労働者が300人以下
厚生労働省「業種別課題対応コース(病院等)のご案内」2ページ引用
(3)助成対象となる取組
以下のいずれか1つ以上を実施する必要があります。
① 労務管理担当者に対する研修(※2)
② 労働者に対する研修(※2)、周知・啓発
③ 外部専門家によるコンサルティング
④ 就業規則・労使協定等の作成・変更
⑤ 人材確保に向けた取組
⑥ 労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新(※3)
⑦ 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新(※3)
(※2) 研修には、勤務間インターバル制度に関するもの及び業務研修も含みます。
(※3)長時間労働恒常化要件に該当する場合は、パソコン、タブレット、スマートフォンの購入費用等が対象となります。詳しくは申請マニュアル等をご確認ください。
厚生労働省「業種別課題対応コース(病院等)のご案内」2ページ引用
(4)成果目標
以下の「成果目標」から1つ以上を選択の上、目標達成を目指して「助成対象となる取組」を実施してください(※4)。
①月60時間を超える36協定の時間外・休日労働時間数の縮減
②年次有給休暇の計画的付与制度の新規導入
③時間単位の年次有給休暇制度と、交付要綱で規定する特別休暇を1つ以上新規導入
④9時間以上の勤務間インターバルを導入
⑤「医師の働き方改革の推進」の実施(※5)
(※4)上記①から⑤の成果目標に加えて、指定する労働者の時間当たりの賃金額を3%以上5%以上または7%以上引き上げることを成果目標に加えることができます。
(※5)以下アとイを全て実施する必要があります。なお、 実施事項の詳細は申請マニュアルをご覧ください。
ア(ア)労務管理責任者の設置と、責任の所在とその役割の明確化
(イ)医師の副業・兼業先との労働時間の通算や医師の休息時間確保、長時間労働の医師に対する面接指導の実施に係る協力体制の整備(副業・兼業を行う医師がいる場合)
(ウ)研修等によって労働時間管理の理解を深める取組の実施
イ 医師の労働時間の実態把握を行うこと。
厚生労働省「業種別課題対応コース(病院等)のご案内」2ページ引用
厚生労働省「申マニュアル(2025年度)」3頁参照
(5)スケジュール
①「交付申請書」を最寄りの労働局雇用環境・均等部(室)に提出(締切:令和7年11月28日(金))
②交付決定後、提出した計画に沿って取組を実施(事業実施は、令和8年1月30日(金)まで)
③労働局に支給申請(申請期限は、事業実施予定期間が終了した日から起算して30日後の日または令和8年2月6日(金)のいずれか早い日となります。)
厚生労働省「業種別課題対応コース(病院等)のご案内」1ページ引用
厚生労働省「申請マニュアル(2025年度)」3頁参照
2.業務改善助成金
(1)制度の概要
事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げ、設備投資等を行った中小企業に、その費用の一部が助成される制度です。
※申請前の賃金引き上げ、交付決定前の設備投資は対象とならないためご注意ください。
※事業場内の最低賃金とは、事業場で最も低い時間給を指します(本制度では、雇い入れ後6か月を経過した労働者の事業場内最低賃金を引き上げる必要があります。)。
厚生労働省「令和7年度業務改善のご案内」1頁参照
(2)対象となる設備投資など
助成対象事業場における、生産性向上に資する設備投資等が助成の対象となります。
厚生労働省「令和7年度業務改善のご案内」3頁参照
厚生労働省「業務改善助成金の活用例」参照
(3)助成額
最大600万円
※助成額は賃金の引き上げ額及び引き上げされる労働者数等により決まります。
3.キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
(1)制度の概要
非正規雇用の労働者の基本給の賃金改定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した場合に助成します。パートタイム労働者など非正規雇用の労働者の賃金引き上げが対象となります。
(2)支給額
厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)」6頁参照
4.さいごに
最低賃金の改定による人件費の増加は、医療機関の費用を増加させ経営を圧迫する要因の一つとなります。今回の医業経営FPNewsではこれらの制度は、増加する人件費の負担を軽減し、経営の安定化に貢献するものです。ぜひご検討ください。
(文責:税理士法人FP総合研究所)