【No404】賞与の税額計算と賞与支払届について

夏季や冬季の賞与(ボーナス)支給時期は、医療機関の経理・労務担当者にとって賞与の計算や賞与支払届の提出などの業務が集中するタイミングです。医師や看護師、受付事務及び常勤や非常勤など多種多様な雇用形態が存在する医療機関では、主たる勤務先として「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している「甲欄」の従業員だけでなく、他の勤務先と掛け持ちしているため同申告書の提出がない「乙欄」の従業員も多く在籍しています。そのため、各人に応じた税額計算はもちろんのこと、医師国民健康保険組合の取扱いといった医療機関特有のルールにも適切に対応しなければなりません。

今回の医業経営FPNewsでは、具体的な金額例を交えながら、賞与の税額計算と賞与支払届の手続き及び医療機関特有の留意点について解説します。

1.賞与に対する社会保険料

(1)健康保険料、厚生年金保険料の算定

①協会けんぽに加入している場合

賞与に対する健康保険料及び厚生年金保険料は、支給される賞与の額面総額から1,000円未満を切り捨てした「標準賞与額」に、各保険料率を乗じて決定されます。健康保険料、厚生年金保険料ともに、医療法人や個人診療所(事業主)と従業員(被保険者)が折半して負担します。  

②医師国民健康保険組合(以下、「医師国保」といいます。)に加入している場合

医師国保に加入している医療機関では、協会けんぽとは異なり、原則として賞与支給時における健康保険料の算定および控除は行われません。ただし、厚生年金保険や雇用保険の適用事業所となっている場合は、厚生年金保険料については通常通り賞与からの控除が必要です。 

(2)雇用保険料の算定

雇用保険料は、健康保険料等とは異なり「標準賞与額」を用いず、賞与の総支給額(1,000円未満の切り捨てはありません。)に雇用保険料率を乗じて計算します。

日本年金機構「保険料の計算方法について」参照

厚生労働省 「令和8(2026)年度雇用保険料率のご案内」 参照

2.賞与に対する源泉所得税

(1)前月に支給した給与がある場合(甲欄)

①内容

賞与から控除する源泉所得税は、原則として「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」と「扶養親族等の数」を基準に、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の「甲欄」を用いて適用する税率(算出率)を決定します。 

②具体例

・賞与:720,000円

・前月の社会保険料等控除後の給与等の金額:300,000円

・扶養人数:0人

・賞与に係る社会保険料:90,000円

賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表より、賞与の金額に乗ずべき率 ⇒ 6.126%

源泉徴収税額 ⇒ (720,000円ー90,000円)×  6.126%=38,593円(円未満切捨)

(2)前月に支給した給与がない場合(甲欄)

①内容

中途採用されたスタッフなどで前月に給与の支払いがない場合、原則の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」は使用できません。特例として、賞与から社会保険料等を差し引いた金額を6で除し、その金額を「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」の「甲欄」 に当てはめて求めた税額を6倍して計算します。

②具体例

・賞与:720,000円

・前月の社会保険料等控除後の給与等の金額:なし

・扶養人数:0人

・賞与に係る社会保険料:90,000円

賞与から社会保険料等を差し引いた金額を6で除した金額 ⇒(720,000円ー90,000円)÷ 6=105,000円

給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の「甲欄」に当てはめて求めた税額 ⇒ 170円

源泉徴収税額 ⇒ 170円 × 6=1,020円

(3)前月に支給した給与がある場合(乙欄)

①内容

賞与から控除する源泉所得税は、原則として「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」を基準に、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の「乙欄」を用いて適用する税率(算出率)を決定します。

②具体例 

・賞与:240,000円

前月の社会保険料等控除後の給与等の金額:100,000円

・賞与に係る社会保険料:0円

賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表より、賞与の金額に乗ずべき率 ⇒ 10.21%

源泉徴収税額 ⇒ 240,000円 × 10.21%=24,504円

(4)前月に支給した給与がない場合(乙欄)

①内容

非常勤医師などで前月に給与の支払いがない場合、賞与から社会保険料等を差し引いた金額を6で除し、その金額を「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」の「乙欄」 に当てはめて求めた税額を6倍して計算します。

②具体例

・賞与:240,000円

・前月の社会保険料等控除後の給与等の金額:なし

・賞与に係る社会保険料:0円

賞与から社会保険料等を差し引いた金額を6で除した金額 ⇒(240,000円ー0円)÷ 6=40,000円

給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の「乙欄」に当てはめて求めた税額 ⇒ 1,225円(円未満切捨)

源泉徴収税額 ⇒ 1,225円 × 6=7,350円

国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」参照

国税庁「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和8年分)」参照

国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(令和8年分月額表)」参照

3.賞与支払届の提出義務

(1)提出の目的と意義

医療法人や社会保険適用事業所となっている個人診療所が従業員に賞与を支給した場合、支給した日から5日以内に、管轄の年金事務所または事務センターへ「被保険者賞与支払届」を提出しなければなりません。これにより各人の標準賞与額が決定され、将来の年金額の計算基礎等に反映されます。なお、 医師国保に加入しているため健康保険料の控除がない場合でも、厚生年金保険の適用事業所であれば同届出の提出は必要です。 

 日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」参照

(2)賞与が不支給であった場合

日本年金機構からあらかじめ賞与支払届の様式が送付されている(印字されている)月において、賞与の支給を全く行わなかった(不支給であった)場合であっても、その旨を報告する「賞与不支給報告書」を提出する必要があります。 

日本年金機構「賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき」参照

4. 医療機関特有の留意点

(1)医療法人の事前確定届出給与

医療法人において、理事長や理事などの役員に対して賞与を支給する場合、原則として税務上の損金に算入されません。損金算入を認められるためには「事前確定届出給与」の要件を満たす必要があり、あらかじめ社員総会や理事会等で決議した支給時期・支給金額を、所定の期限までに税務署へ届け出ておくことが求められます。届出通りの日時に届出通りの金額を支給しなかった場合は、全額が損金不算入となるリスクがあります。

国税庁 「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」参照

(2)個人診療所の青色事業専従者給与

個人診療所において、院長と生計を一にする配偶者や子供などの親族(青色事業専従者)に対して賞与を支給する場合、あらかじめ税務署へ提出している「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載された範囲内の金額で支給する必要があります 。届出書に記載した「賞与の支給時期」以外の時期で支給された金額や「支給額の上限枠」を超えて支給された金額については、税務上の必要経費として認められないリスクがあります。

 国税庁 「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」参照

5.さいごに

賞与計算業務は、前月に支給した給与の有無による税額計算の違いに加え、医師国保加入時の特有な処理など、社会保険料の計算においても細かな確認が求められます。また、医療法人の理事長などに対する賞与における事前確定届出給与の要件や個人診療所における青色事業専従者給与の届出など、経営者層に対する支給ルールは税務調査でも厳しくチェックされるポイントです。医療機関の健全な経営体制を維持するためにも、各種保険料の適正な控除と届出の管理を徹底することが重要です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)