【No1052】国外転出(相続)時課税について
昨今、経済や教育環境のグローバル化、価値観の多様化による海外移住の増加に伴い、「相続人の中に海外在住の方(非居住者)がいる」というケースが珍しくなくなってきました。今回は、このような場合に直面する可能性がある「相続に伴う国外転出時課税」についてご説明します。
1.国外転出(相続)時課税の概要
国外転出(相続)時課税とは、相続開始の時点で、1億円以上の有価証券等を所有または契約の締結をしている一定の居住者が亡くなり、非居住者である相続人等が相続または遺贈により有価証券等の全部または一部を取得した場合には、その相続開始の時に、有価証券等の譲渡または決済があったものとみなして、その有価証券等の含み益に対して所得税及び復興特別所得税が課税される制度です。
(1)対象者
相続開始の時において、下記の全てに該当する被相続人に国外転出(相続)時課税が適用されます。
①相続時に国内に住所又は居所を有していた居住者であること。
②相続の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年超であること。
③相続開始の時に被相続人が所有又は契約している有価証券等の価額の合計が1億円以上であること。
④非居住者がその有価証券等を相続又は遺贈により取得すること。
(2)対象資産
有価証券(上場・非上場株式、投資信託等)、匿名組合契約の出資の持分、未決済の信用取引・発行日取引・ デリバティブ取引が対象資産となります。
(3)申告手続き等
この制度の対象となる方(被相続人)の相続人は、相続開始があったことを知った日の翌日からを経過した日の前日までに、その年の1月1日から死亡の日までに確定した被相続人の各種所得に、国外転出(相続)時課税の適用による所得を含めて被相続人の所得税の準確定申告書の提出及び納税をする必要があります。
(4)国外転出(相続)時課税により譲渡損失が生じた場合
国外転出時課税制度の適用により行われたとみなされた上場株式等の譲渡により生じた損失は上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用対象となります。なお、下記3.「帰国等をした場合の課税の取消し」により譲渡損失がなかったものとする場合には、準確定申告の修正申告が必要となり、本税及び延滞税等の納付義務が生じます。
2.準確定申告期限までに未分割の場合
(1)未分割のときの準確定申告
民法では、遺産分割協議が成立していない期間については、被相続人の財産は各相続人の共有に属し、その相続分に応じて権利義務を承継するとされています。
国外転出(相続)時課税も、民法と同様に処理され、相続時から遺産分割協議が成立するまでの期間は、国外転出(相続)時課税の対象財産については、各相続人が法定相続分に応じて取得したものとされます。そのことから非居住者の法定相続分に対応する対象財産については、国外転出(相続)時課税が適用されます。
(2)準確定申告の期限後に遺産分割協議が成立した場合
相続人は、遺産分割協議の成立した日から4か月以内に修正申告書の提出をし、又は更正の請求をすることができます。
3.納税猶予の特例
国外転出(相続)時課税に係る所得税については、一定の手続と担保の提供により、相続の日から5年を経過する日まで納税猶予の適用を受けることができます。
(1)納税猶予を受けるための手続き
納税猶予の特例の適用を受けるためには、次のことが必要となります。
①準確定申告書の提出期限までに、対象資産を取得した非居住者である相続人等の全員が原則として連名で署名した一枚の書類で、所轄税務署へ納税管理人の届出をすること。
②準確定申告書に納税猶予の特例の適用を受けようとする旨を記載し、かつ一定の書類を添付して提出すること。
③準確定申告書の提出期限までに、納税を猶予される所得税額及び利子税額に相当する担保を提供すること。
(2)納税猶予に係る期限の延長
相続開始の日から5年を経過する日までに納税猶予の期限の延長を受けたい旨を記載した届出書(「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等に係る納税猶予の継続適用届出書」)を所轄税務署に提出することにより、納税猶予の期間を5年から10年に延長することができます。
(3)継続適用届出書の提出
納税猶予期間中は、各年の12月31日において所有等している対象資産について、引き続き納税猶予の特例の適用を受けたい旨を記載した届出書を翌年3月15日までに、所轄税務署へ提出する必要があります。継続適用届出書の提出が期限までにない場合は、提出期限の翌日から4か月を経過する日をもって納税猶予が終了し、猶予されている所得税及び利子税を併せて納付しなければなりません。なお、相続人が2人以上いるときは、原則として連名で署名した一枚の書類で提出しなければなりません。この場合、対象資産を取得したかどうか、居住者又は非居住者であるかに関わりません。
(4)納税猶予期間が満了した場合
納税猶予期間が満了した場合は、その翌日以後4か月を経過する日までに納税が猶予されていた所得税とその利子税を併せて納付する必要があります。
なお、納税猶予期間の満了日に、対象資産の満了日の価額が相続時の価額より下落しているときは、相続時に満了日の価額により対象資産を譲渡又は決済したものとみなして、被相続人の国外転出(相続)時課税に係る所得税の再計算をすることができます。その場合には、納税猶予期間の満了日から4か月以内に準確定申告の更正の請求をすることで、被相続人の所得税を減額することができます。
4.帰国等をした場合の課税の取消し
(1)帰国した場合
国外転出(相続)時課税が適用された資産を相続又は遺贈により取得した非居住者が、相続の日から5年以内(納税猶予の特例の適用を受け、納税猶予の期限延長の届出書を提出している場合には、10年以内)に帰国をした場合には、その帰国の時まで引き続き所有又は契約している資産については、国外転出(相続)時課税の適用がなかったものとして、被相続人の課税の取消しをすることができます。
なお、国外転出(相続)時課税が適用された資産を取得した非居住者が複数いる場合には、その非居住者の全員が帰国をしたときに、課税の取消しをすることができます。
(2)居住者への相続又は贈与があった場合
次の場合に該当するときも、国外転出(相続)時課税の適用がなかったものとして、被相続人の課税の取消しをすることができます。
①相続の日から5年以内に、対象資産を取得した非居住者が、対象資産を居住者に贈与した場合
②相続の日から5年以内に、対象資産を取得した非居住者が死亡し、その死亡した非居住者から相続又は遺贈により対象資産を取得した相続人又は受遺者のすべてが居住者となった場合
(3)手続き
課税の取消しをする場合には、上記(1)の帰国の日又は上記(2)の贈与、相続又は遺贈の日から4か月以内に準確定申告の更正の請求又は修正申告をする必要があります。
5.まとめ
国外転出(相続)時課税については死亡から4か月以内の準確定申告が必要です。遺言書がない場合、期限までに遺産分割協議が成立しないと未分割として国外転出(相続)時課税係る納税が確定します。遺言書がある場合、相続人である非居住者が遺言により有価証券等を相続することがなければ当該課税が行われることはありません。現実問題として4か月以内の遺産分割協議の成立は難しいため、推定相続人に海外在住の方がいる場合には事前に遺言書を作成しておくことをお勧めいたします。
(文責:税理士法人FP総合研究所)