【No801】不動産オーナーにおけるインボイス制度への対応ついて

 令和5年10月1日からの適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)の導入に向けて、令和3年10月1日から適格請求書発行事業者の登録申請の受付が開始されました。不動産オーナーの場合、現在、免税事業者である方も多いかと思いますが、適格請求書発行事業者とならなければ、賃貸契約にも影響を及ぼす可能性があることから、慎重に判断する必要があります。今回はそのインボイス制度についてご説明します。

1.消費税の計算方法への影響

 課税事業者である買い手は、「適格請求書等」を保存しなければ仕入税額控除ができなくなります。「適格請求書等」は「適格請求者発行事業者」だけが発行できるため、売り手は登録申請をして「適格請求書発行事業者」になる必要があります。

 適格請求書等とは、売り手が買い手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、登録番号などの一定の事項が記載された請求書や納品書、領収書、レシート等の書類や電子データのことをいいます。

《納付すべき消費税の計算方法》

2.適格請求書発行事業者登録制度

 インボイス制度は令和5年10月1日から導入されますが、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるためには、令和3年10月1日から令和5年3月31日まで(困難な事情がある場合には、令和5年9月30日まで)に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出する必要があります。(登録申請書の提出後、審査に一定の時間を要します。)

3.免税事業者が適格請求書発行事業者になる場合の注意点

 「適格請求書等」を発行できるのは課税事業者が登録できる「適格請求書発行事業者」に限られますので、免税事業者は発行することができません。そのため、免税事業者が「適格請求書等」を発行するためには、登録申請書に加えて「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出し、課税事業者となる必要があります。ただし、令和5年10月1日を含む課税期間中に「適格請求書発行事業者」の登録を受けた場合は、登録を受けた日から課税事業者となるため、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要となります。

 課税事業者となった場合は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても消費税の申告と納付が必要になります。

《具体例:課税期間が1月1日から12月31日までの事業者である場合》

①登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の場合

 この場合は、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要となります。

②登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の翌課税期間の場合

 この場合は、「消費税課税事業者選択届出書」提出し、課税事業者を選択するとともに、課税事業者となる課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書の提出が必要となります。

4.免税事業者から課税仕入れを行う場合の経過措置

 インボイス制度の導入から6年間は、免税事業者等からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。(経過措置による仕入税額控除の適用にあたっては、免税事業者等から受領する区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存と、この経過措置の適用を受ける旨(80%控除・50%控除の特例を受ける課税仕入れである旨)を記載した帳簿の保存が必要となります。)

《経過措置が適用できる期間》

5.不動産オーナーへの影響

 不動産の貸付けのうち、店舗、事務所及び駐車場の貸付け等は、消費税の課税対象となります。現行の制度では、オーナーが課税事業者、免税事業者どちらであったとしても、賃借人がその支払う家賃は仕入税額控除の対象となりますが、インボイス制度が導入されると、オーナーが課税事業者(「適格請求書発行事業者」の登録を受けた課税事業者に限ります。以下同じ)、免税事業者どちらに該当するかで賃借人に影響を及ぼします。

 オーナーが課税事業者であった場合は、賃借人はその支払う家賃に含まれる消費税につき、仕入税額控除の対象とすることができます。また、オーナーの仕入税額控除についても、本則課税の場合、適格請求書発行事業者からの仕入れでなければ、仕入税額控除の対象とすることができなくなります。

 しかし、オーナーが免税事業者であった場合は、賃借人はその支払う家賃に含まれる消費税につき、仕入税額控除の対象とすることができないため、その消費税額分、賃借人の負担が増加します。(上記「4.経過措置」の適用はあります。)その場合、賃借人はオーナーが課税事業者である物件に転居してしまう、また、消費税相当額の支払いを拒否されることも想定され、免税事業者であるオーナーは競争力が低下したり、今までの消費税の益税部分を喪失することが想定されます。

 そのような場合に備え、現状、免税事業者であるオーナーも、敢えて課税事業者を選択することの検討が必要になります。課税事業者を選択した場合、消費税の申告及び納付が必要となりますが、簡易課税制度を選択した場合は、みなし仕入率の適用により、消費税額の60%を納付し、残り40%は手許に残ることとなりますので、課税事業者を選択することに加え、簡易課税制度を選択することについても検討する必要があります。

《具体例:課税売上高が800万円である免税事業者の場合》

(1)免税事業者を継続したオーナーの場合

家賃880万円(税込)の請求をしていた免税事業者であるオーナーに対して、インボイス制度の導入により、消費税80万円の値下げを要求された場合、収入は800万円になります。

(2)課税事業者を選択したオーナーの場合

 消費税の納付48万円(80万円×1-40%(みなし仕入率))が必要となりますので、家賃880万円(税込)から消費税納付額48万円控除した832万円が手残りの金額となります。

(文責:税理士法人FP総合研究所)