【No819】所有者不明土地関連法の施行期日の決定について

 相続登記の義務化等を含む所有者不明土地関連法の施行期日が令和3年12月14日発表されました。平成29年度の国土交通省の調査では、日本全国の土地のうち約22%が所有者不明の土地であり、「相続登記が行われていないため所有者が判明しないこと」又は「所有者が判明しても住所変更がされておらず連絡がつかないこと」等がそれらの大きな要因とされてきました。所有者不明土地は所有者探索に多大な時間と費用を要すことと、公共事業や災害復旧・復興事業も円滑に進まず、管理の放置により隣地へ悪影響を及ぼすなど多くの問題点が指摘されており、これらを改善するため令和3年4月28日に当該関連法が公布されました。

 所有者不明土地関連法は複数の法律により構成されており、個々に施行日が異なり段階的に施行されます。

1.不動産登記制度の見直し

(1)相続登記の申請義務化(施行日:令和6年4月1日)

 相続が発生してもそれに伴って相続登記がされない原因として、これまで相続登記の申請は任意とされており、かつ、その申請をしなくても相続人が不利益を被ることが少なかったこと、相続した土地の価値が乏しく売却も困難であるような場合には、費用や手間を掛けてまで登記の申請をする意欲がわきにくいことが指摘されています。そのため、相続登記の申請を義務化することで所有者不明土地の発生を予防しようとしています。

①基本的なルール

  相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないこととされました。

②遺産分割が成立した時の追加的なルール  

 遺産分割の話し合いがまとまった場合には、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請しなければならないこととされました。

 ①・②ともに、正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。

(2)相続人申告登記の申請義務化(施行日:令和6年4月1日)

 上記(1)のとおり、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記しなければなりませんが、遺産分割協議が終わっていないなどの事情により、相続登記をするのが難しいケースがあります。

 そこで、登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自らがその相続人であることを登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務(上記①)を履行することができます。

 相続人申告登記の申請があると、登記官はその不動産の登記に申出人の氏名や住所などの情報を付記します。ただしこの時点では正式な相続登記ではありません。その後、遺産分割協議などを行って相続人が確定したら、その日から3年以内に正式な相続登記(名義変更)をすれば相続人は義務(上記②)を履行したことになります。

3)住所等の変更登記の申請義務化(施行予定日:令和8年4月までに)

 登記簿上の所有者の氏名や住所が変更されてもその登記がされない原因として、これまで住所等の変更登記の申請は任意とされており、かつ、その申請をしなくても所有者自身が不利益を被ることが少なかったこと、転居等の度にその所有不動産について住所等の変更登記をするのは負担であることが指摘されています。そこで、住所等の変更登記の申請を義務化することで、所有者不明土地の発生を予防しようとしています。

 登記簿上の所有者については、その住所等を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請をしなければならないこととされました。正当な理由がないのに義務に違反した場合、5万円以下の過料の適用対象となります。

2.土地利用に関連する民法の規律の見直し

(1)財産管理制度の見直し(施行日:令和5年4月1日)

 所有者不明土地・建物や、管理不全状態にある土地・建物は、公共事業や民間取引を阻害したり、近隣に悪影響を発生させるなどして問題となりますが、これまでその管理に適した財産管理制度がなく、管理が非効率になりがちでした。

 そこで、土地・建物の効率的な管理を実現するために、所有者が不明であったり、所有者による管理が適切にされていない土地・建物を対象に利害関係人が地方裁判所に申立をし、管理人を選任してもらうことで、効率的な管理を実現させることができるようになります。 

(2)共有制度の見直し(施行日:令和5年4月1日)

 共有状態にある不動産について、所在等が不明な共有者がいる場合には、その利用に関する共有者間の意思決定をすることができなかったり、処分できずに公共事業や民間取引を阻害したりしているといった問題が指摘されています。また、所有者不明土地問題をきっかけに共有物一般についてのルールが現代に合っていないことが明らかになりました。

 そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点から、共有制度全般について様々な見直しが行われました。

①共有物につき軽微な変更をするために必要な要件が緩和されました(全員の同意は不要で持分の過半数で決定可)

②所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は地方裁判所に申し立てその決定を得て下記a~cのことができます。

 a.残りの共有者の持分の過半数で、管理行為(例:共有者の中から使用者を1人に決めること)  

 b.残りの共有者全員の同意で、変更行為(例:農地を宅地に造成すること)

 c.所在等が不明な共有者の持分を取得したり、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡※

  ※裁判所において、持分に応じた時価相当額の金銭の供託が必要になります。

(3)相隣関係規定の見直し(施行日:令和5年4月1日)

 隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合には、隣地の所有者から隣地の利用や枝の切取り等に必要となる同意を得ることができないため、土地の円滑な利活用が困難となります。そこで、隣地を円滑・適正に使用することができるようにする観点から、隣地所有者が不明でも、必要に応じて一時的に隣地使用権が認められる仕組みが創設されます。

(4)相続制度の見直し(施行日:令和5年4月1日)

 相続が発生してから遺産分割がされないまま長期間放置されると、相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有状態となる結果、遺産の管理・処分が困難になります。また、遺産分割をする際には、法律で定められた相続分(法定相続分)等を基礎としつつ、個別の事情(例えば、生前 贈与を受けたことや、療養看護等の特別の寄与をしたこと)を考慮した具体的な相続分を算定するのが一般的です。しかし長期間が経過するうちに具体的相続分に関する証拠等がなくなってしまい、遺産分割が難しくなるといった問題があります。そこで、被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分を考慮せず、法定相続人または指定相続分によって画一的に行うこととされます。

3.相続土地国庫帰属制度の創設 (施行日:令和5年4月27日)

 都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、土地の利用ニーズが低下する中で土地所有に対する負担が増加しており、相続された土地が所有者不明土地の予備軍となっていると言われています。そこで、所有者不明土地の発生予防の観点から、相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣 (窓口は法務局です。)の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が新たに創設されました。

 基本的に、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人であれば、申請可能です。制度の開始前に土地を相続した方でも申請することができますが、売買等によって任意に土地を取得した方や法人は対象になりません。

 土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請していただく必要があります。

 また次のような通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外となります。

 申請後、法務局職員等による書面審査や実地調査が行われます。(要件の詳細については、今後政省令で定められる予定です。)

<国庫帰属が認められない土地の主な例>

・建物、工作物、車両等がある土地    ・土壌汚染や埋設物がある土地     

・危険な崖がある土地          ・境界が明らかでない土地

・担保権などの権利が設定されている土地 ・通路など他人による使用が予定される土地

 申請時には審査手数料、国庫への帰属について承認を受けた場合には、負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付する必要があります。具体的な金額や算定方法は、今後政令で定められる予定です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)

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