【No835】贈与の取消しがあった場合の贈与税の取扱い

 財産の贈与があった場合には、贈与があった年の翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告を行うこととされています。しかしながら、財産の名義変更を行ったものの、その後において贈与税が多額にかかることなどを受贈者が認識し、それであれば贈与を受ける判断は行わなかったとして、その贈与が過誤であったとして取り消したいというケースが考えられます。このような場合については、一定の要件を満たし、贈与の取消しがあったことが明確であるときには、贈与税を課さないとの取扱いが設けられています。

1.財産の名義変更があった場合の原則的な取扱い

 財産評価基本通達9-9において、「不動産、株式等の名義の変更があった場合において対価の授受が行われていないとき又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として取り扱うものとする。」とされており、このように無償による財産の移転があった場合には、贈与税が課されることとされています。

2.名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合

 贈与が行われた後にその贈与契約が取り消されたとしても、その贈与された財産についての贈与税は原則として取り消されないこととされています。

 しかし、財産の名義変更又は他人名義による財産の取得が行われた場合においても、それが贈与の意思に基づくものでなく、他のやむを得ない理由に基づいて行われる場合又はこれらの行為が権利者の錯誤に基づいて行われた場合等においては、その例外と取り扱われるべきとされています。その具体的な取扱いにおける判断基準については、において、「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱い」(昭和39年5月23日付直審(資)22)として国税庁長官により通達が発遣されています。

3.合意解除等による贈与の取消しがあった場合の特例

 一旦成立した贈与契約が、その後において合意により取り消され、又は解除された場合においても、原則として、当該贈与契約に係る財産の価額は、贈与税の課税価格に算入すると考えられます。しかし、過誤等に基づく場合も考えられることから、当事者による合意による取消し又は解除が一定の要件を満たす場合には、当該贈与はなかったものとして取り扱うことができることとされています。

〔贈与の取消しが認められる要件〕

(1)贈与契約の取消し又は解除が当該贈与のあった日の属する年分の贈与税の申告書の提出期限までに行われたものであり、かつ、その取消し又は解除されたことが当該贈与に係る財産の名義を変更したこと等により確認できること。

(2)贈与契約に係る財産が、受贈者によって処分され、若しくは担保物件その他の財産権の目的とされ、又は受贈者の租税その他の債務に関して差押えその他の処分の目的とされていないこと。

(3)当該贈与契約に係る財産について贈与者又は受贈者が譲渡所得又は非課税貯蓄等に関する所得税その他の租税の申告又は届出をしていないこと。

(4)当該贈与契約に係る財産の受贈者が当該財産の果実を収受していないこと、又は収受している場合には、その果実を贈与者に引き渡していること。

 例えば、令和3年中に行った不動産の贈与について、過誤に基づき、又は軽率にされたものであるとして、令和4年3月15日までに贈与契約の合意解除がなされ、不動産の名義も変更するなどして贈与が取り消されたことが確認できる場合には、令和3年分の贈与税は課されないこととされています。この期限を徒過した場合には、たとえ錯誤であっても贈与税が課されることとなるため、期限までに合意解除があったことを明確にできるようにしておくことが大切です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)

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