【No904】相続放棄と相続税申告の関係性

 相続が発生し被相続人が債務超過となっている場合に、相続放棄といった法的手続をとることがありますが、資産超過の場合でも、子がおらず父母等が相続人となる場合に相続放棄を行い、兄弟姉妹が相続することがあります。今回は、相続放棄と、相続放棄を行ったことによる相続税への影響を解説します。

.相続放棄とは

 相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことをいいます。なお、相続放棄の手続等は次のとおりです。

(1)原則として相続が開始したことを知った日から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出し受理されれば認められます。(3か月以内で判断がつかないときには、家庭裁判所に期間の伸長の申立てができます。相続開始後しばらくしてから債権者から請求を受け、初めて債務の存在を知ったような場合には、相続開始後3か月を経過していても、相続放棄が認められる場合があります。)

(2)配偶者以外の同順位の相続人が全員相続放棄した場合には、法定相続人における次の順位の人が相続人となります。例えば、すべての子が相続放棄をすると直系尊属(父母等)が相続人となり、さらにすべての直系尊属が相続放棄をすると、兄弟姉妹が相続人となります。なお、配偶者は常に法定相続人で相続順位には関係ないため、相続権が他の人に移ることはありませんが、法定相続分や遺留分の割合には影響します。

(3)子が放棄しても直系卑属(子、孫など)について代襲相続が起きることもありません。兄弟姉妹が法定相続人の場合に放棄しても、甥姪などは相続人にはなりません。

2.相続税の計算方法への影響

(1)相続税の基礎控除額

 相続税の基礎控除額は次のとおり計算されます。なお、基礎控除額の計算においては、法定相続人の数には相続放棄をした人を含めるため、相続放棄により基礎控除額は変動しません。

基礎控除額の計算式:3,000万円+600万円×法定相続人の数

(2)相続税の総額

 相続税の総額は次のとおり計算されます。なお、この相続税の総額の計算においても、法定相続人には相続放棄をした人を含めるため、相続放棄により相続税の総額は変動しません。

 ①課税遺産総額(課税価格から基礎控除額を引いた金額)を各法定相続人が法定相続分に従って取得したものとして取得金額を計算します。

 ②上記①の取得金額に対して税率(累進)を乗じ、各法定相続人の算出税額を合計した金額が相続税の総額となります。

(3)生命保険金等の非課税制度

 被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。

 この死亡保険金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません。)である場合、次の算式によって計算した非課税限度額までの死亡保険金については非課税となり、死亡保険金額が非課税限度額を超えるときは、その超える部分が相続税の課税対象となります。(複数の相続人が受取る場合には、非課税限度額を生命保険金額で按分します。)なお、非課税限度額の計算においても、法定相続人の数には相続放棄をした人を含めるため、相続放棄により非課税限度額は変動しません。

非課税限度額の計算式:500万円×法定相続人の数

 相続放棄をしていても生命保険契約で死亡保険金の受取人となっている場合には、保険金を受け取ることができます。これは、死亡保険金は被相続人の財産ではなく、受取人の固有財産となるためです。ただし、非課税制度の適用を受けられる人に、相続放棄をした人は含まれません。また、相続放棄をした人に適用されるはずだった非課税限度額は、相続放棄等をしていない相続人に割り当てられます。

 加えて、退職手当金等の非課税制度についても同様の取り扱いとなります。

(4)債務控除

 被相続人に債務があった場合に、相続人がその債務を承継すれば遺産総額から控除することがきます。しかし、債務が控除できる人は、相続人や包括受遺者(相続時精算課税の適用を受ける贈与により財産をもらった人を含みます。)のみで、相続放棄をした人は債務を控除できません

 また、債務控除には被相続人の葬式費用を負担した場合も含まれますが、葬儀費用に関しては相続放棄をした人が負担しても葬式費用を控除できます。これは、遺言書等で遺贈により取得した財産から控除することになります。

(5)相続順位の変動と相続税額の2割加算

 相続等により財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含みます。)および配偶者以外の人である場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算(以下「2割加算」とします。)されます。

 そのため、父母(直系尊属)が相続人であった場合、その父母には2割加算は適用されません。しかし、父母が相続放棄を行い兄弟姉妹が相続人となると、基本的に兄弟姉妹が財産を相続することになるため、兄弟姉妹は2割加算の適用を受け、父母が相続する場合より相続税が増加することになります。

(文責:税理士法人FP総合研究所)