【No930】令和3年民法改正により創設された財産管理制度 – 所有者不明・管理不全の土地・建物管理制度 –

 人口減少や高齢化の進展、地方から都市部への人口移動等を背景に、土地を利用したいというニーズが低下し土地の所有意識が希薄化する、いわゆる「所有者不明土地」が全国的に増加し社会問題化しています。「所有者不明土地問題」は、高齢化の進展による相続機会の増加等により今後も増加し続けることが予想され、2018年に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が制定されて以降、様々な法整備が進められています。そこで、今回は令和5年4月1日に施行された新制度「所有者不明土地・建物の管理制度」と「管理不全土地・建物の管理制度」を簡単に紹介します。

1.不在者財産管理・相続財産管理制度(改正前)

 これまでも土地や建物の所有者が行方不明の場合には不在者財産管理人、所有者が死亡して相続人のあることが明らかでない場合には相続財産管理人、法人が解散したが清算人となる者がない場合には清算人を選任して、これらの問題に対応することができました。しかし、これらの財産管理制度は財産単位ではなく人単位で財産全般を管理する必要があるため、財産管理が非効率になりがちで申立人等の利用者にとっても負担が大きいという問題や、所有者を全く特定できない土地・建物については制度を利用することができないという問題がありました。また、所有者による管理が適切に行われず、荒廃・老朽化等によって危険な状態にある土地・建物は近隣に悪影響を与えることがありますが、こうした管理不全状態にある土地・建物の所有者に代わり管理を行う仕組みが存在しないために、対応が硬直化し、実際の状態を踏まえて適切に管理することが困難であるとの問題もありました。そこで、以下2つの制度が新たに創設されました。

2.所有者不明土地・建物の管理制度(新設)

 所有者不明土地・建物管理制度とは、所有者又は所有者の所在を知ることができない土地・建物について(共有も含む)、利害関係人の請求により、裁判所が必要と認める場合、その請求に係る土地・建物又は共有持分を対象として所有者不明土地・建物管理人(「管理人」)による管理を命ずる処分をすることができる制度をいいます(民法264条の2第1項)。命令により裁判所は管理人としてふさわしい者(弁護士・司法書士等)を管理人に選任します。管理人は、対象財産の保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て対象財産の処分(売却、建物の取壊しなど)をすることも可能とされており、管理人が土地や建物を譲渡することにより所有者不明状態を解消できる点で非常に意義のある制度とされています。

(1)利害関係人

 利害関係人は、所有者不明土地を適切に管理するという制度趣旨に照らして判断されるものであるため、不在者財産管理制度の利害関係人とは、その範囲が必ずしも一致するものではないと考えられています。一般論としては、その土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者や一部の共有者が不明な場合の他の共有者、その土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者がこれに当たると考えられるほか、民間の買受希望者も一律に排除されるものではないとされています(民法・不動産登記法部会資料43参照)。また、地方公共団体の長等には所有者不明土地管理命令の申立権を付与する特例が設けられています。

(2)必要と認められる場合

 本制度は管理人に対象となる財産の管理及び処分の権限を専属させるものであるため、制度が適用されると所有者は対象財産に対する所有権を制限され、自らが関与することなく所有権を失うことになります。そのため、対象となる土地が管理不全や過少利用の状態にあるだけでは必要と認められず、所有者による管理を期待しがたいといえる状況にあることが前提とされ、調査を尽くしても所有者又はその者の所在を知ることができない状況であることが要件とされます。調査の程度としては、不動産登記や住民票に基づく所在調査が必要であり、所有者が死亡している場合には戸籍及び住民票による相続人調査が必要になると言われています。もっとも、第三者が住民票の写しや戸籍謄本などを請求するには正当な理由が必要とされるため、自治体に窓口審査の負担を課すことになるとの指摘もあります。

(3)対象物

 所有者不明土地・建物のほか、土地・建物にある所有者の動産、管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合はその敷地利用権(借地権等)にも及びますが、その他の財産には及びません。なお、区分所有建物については本制度は適用されません。

(4)管理の終了

 管理人は、対象財産を全部処分し得た金銭を供託することができます。供託すれば管理する財産がなくなるため、裁判所により管理命令が取り消され管理は終了します。なお管理人は、所有者不明土地等(予納金を含む)から、費用の前払・報酬を受けることができます(費用・報酬は所有者の負担となります)。

 Q:隣の所有者不明の土地の上に、老朽化した所有者不明の建物があり、雑草の繁茂や建材の飛散で迷惑しています。土地と建物について、 まとめて管理命令の申立てをすることはできますか。

 A:所有者不明土地上に所有者不明建物がある場合、土地と建物の両方を管理人による管理の対象とするためには、所有者不明土地管理命令と所有者不明 建物管理命令の双方を申し立てる必要があります。

3.管理不全土地・建物の管理制度(新設)

 管理不全土地・建物の管理制度とは、所有者による土地・建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され又は侵害されるおそれがある場合に、利害関係人の請求により、裁判所が必要と認めるとき、その請求に係る土地・建物を対象として管理不全土地・建物管理人による管理を命ずる処分をすることができる制度をいいます(民法264条の9第1項)。所有者不明土地・建物の管理制度と対象物の範囲は同じであり、本制度でも裁判所は管理人としてふさわしい者(弁護士・司法書士等)を管理不全土地・建物管理人に選任します。

(1)利害関係人

 利害関係人に該当するかは個別事案に応じて判断されますが、一般論としては、例えば、ひび割れ・破損が生じている擁壁を土地所有者が放置しており、隣地に倒壊するおそれがある場合には、倒壊によって被害を受けるおそれが生じている隣地所有者が管理命令の発令を申し立てることができると考えられます。また、ゴミが不法投棄された土地を所有者が放置しており、臭気や害虫発生による健康被害を生じている場合には、その被害を受けている者が管理命令の発令を申し立てることができると考えられます。

(2)管理不全土地管理人の権限

 管理人は、対象物の保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、これを超える行為をすることもできますが、土地・建物の処分をするには、所有者の同意も必要とされています。本制度では管理処分権は管理不全土地管理人に専属せず、所有者に管理処分権が認められます。

 Q:隣の老朽化した空き家が放置され、倒壊のおそれがあるのですが、所有者が遠隔地にいるため放置されています。そのような場合に管理人に取り壊してもらうことは可能ですか。

 A:管理不全土地・建物の管理人が、土地・建物の処分(売却、建物の取壊し等)をするには、裁判所の許可と所有者の同意を得る必要があります。なお、管理人が管理不全土地(建物)にある動産を処分する際には、所有者の同意は不要です。

 Q:隣の分譲マンションの一室のバルコニーに投棄されたゴミの悪臭で迷惑しているのですが、管理不全建物管理命令の発令は可能ですか。

 A:区分所有建物については、管理不全建物管理制度が適用されないため、マンションなどの区分所有建物の専有部分及び共用部分について、管理不全建物管理命令の発令をすることはできません。

※国土交通省「所有者不明土地ガイドブック ~迷子の土地を出さないために!~」(令和4(2022)年3月)参照。

(文責:税理士法人FP総合研究所)