【No572】非上場株式評価制度の抜本的見直しと最新動向
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、第1回から第4回(2026年7月3日)にわたる審議 を経て、非上場株式評価の抜本的見直しに向けた議論を大きく展開させています。会計検査院からの指摘(評価方 式間の乖離)や節税スキームの横行、総則6項の適用をめぐる争訟増加を受け、従来の「類似業種比準方式」と 「純資産価額方式」の二本建て体系から、インカムアプローチ(残余利益モデル等)への一本化や見直しが本格的に検討され始めました。今回は全4回の討議内容を体系的に整理し、実務への影響を確認していきます。
1.見直しの背景:会計検査院の指摘と税務上の諸課題
今回の制度見直しの大きな引き金となったのは、会計検査院による特定検査および国税庁の実態調査(令和4・5年分申告データ分析)です。
① 類似業種比準価額と純資産価額の極端な乖離(評価額の“崖”)
国税庁の調査(700社対象)によると、1株当たりの類似業種比準価額の中央値(9,705円)は、純資産価額の中央値(37,166円)の約26.1%(約4分の1)にとどまっています。全評価会社の77.6%において類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満となっており、会社規模が大きく類似業種比準方式の適用割合が高い区分(大会社)ほど、 純資産に対する申告評価額の倍率が低くなる傾向(大会社0.44倍、中会社0.50倍、小会社0.60倍)が顕著となっています。
② 比準要素としての「配当」の機能不全
調査対象700社のうち82.4%(577社)が直前2期において無配当でした。現行の類似業種比準方式の計算式で は、配当(B)が0の場合、比準要素の係数が実質的に2/3倍となり、評価額が構造的に低く算出されます。配当が 比準要素として機能不全を起こしていることが乖離の主因の一つと指摘されています。
③ 評価圧縮スキームの横行と総則6項適用の予見可能性
評価方式間の乖離を悪用し、純資産価額方式の適用を回避して類似業種比準方式や配当還元方式へ誘導する租税回避スキーム(グループ法人税制の利用、無議決権株式を用いた配当還元方式の濫用、持株会社化による規模操作等)が頻発しています。課税当局は「財産評価基本通達6項(総則6項)」で個別対応を行っていますが、近年訴訟が増加しており、納税者の予見可能性確保の観点から評価ルールの明確化が強く要請されています。
2.有識者会議における主な議論と各専門分野の視点
第1回〜第4回会議では、学識経験者・会社法学者・会計学専門家・実務団体(日本商工会議所、日本税理士会連合会、M&A事業者)から多様な見解が提示されました。
| 立場・視点 | 主張・指摘のポイント |
制度見直しへの インプリケーション |
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会社法学者 (渋谷教授・弥永教授) |
・相続税法22条の時価は「不特定多数間の客観的交換価値(想定)」。 ・会社法上の価格決定では裁判所はDCF法や収益還元法(インカム)を重視し、類似業種比準は根拠不十分として用いられない。 ・継続企業において清算価値>継続価値となるのは不合理(純資産価額は下限値)。 |
実務上の簡便性と根拠ある評価理論の整合性をどう図るかが課題。過剰な低評価による少数株主から多数株主への富の移転を懸念。 |
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会計学専門家 (櫻井名誉教授) |
・インカムアプローチの中で「残余利益モデル(RIM)」が最も優れている。 ・配当割引モデル(無配当問題)やDCF法(将来予測・設備投資の恣意性)に比べ、RIMは「自己資本簿価+将来の会計上の純利益」で算定でき、ボラティリティが小さく予測が容易。 |
税務上の実務に馴染みやすいインカムアプローチとして「残余利益モデル」が有力な一本化の候補に浮上。 |
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経済団体 (日本商工会議所) |
・換金性のない自社株に解散価値(純資産)で重税を課すのは不当。 ・企業の成長(稼ぐ力)が株価高騰・税負担増に直結し事業承継を阻害。 ・「株式評価の見直し」と「事業承継税制の恒久化・拡充」は一体不可分での議論が必要。 |
評価適正化により評価額が上がる場合、事業承継税制等の強力な政策的救済措置を同時に講じるべきと強く主張。 |
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実務団体 (日税連・M&A実務) |
・現行純資産価額は過大(退職給付引当金や資産除去債務の控除認めるべき)。 ・M&A実務では「時価純資産+営業権(超過収益)」が主流。 ・特定の評価会社判定の不連続性(赤字転落で即特定会社化等)の是正が必要。 |
実務負担への配慮、実態利益の修正(過剰役員報酬や節税商品の修正)などの算定プロセスの明確化を要望。 |
3.第4回資料にみる評価制度見直しの具体的方向性
第4回会議(2026年7月3日)では、当局から今後の検討課題として以下の6つの主要論点(諮問事項)が提示されました。
【当局が示した6つの検討論点と見直しの方向性】
<論点1 評価理論と実務の反映>
学術研究(残余利益モデル等)やM&A評価手法を参考に、抜本的見直しを推進。
<論点2 原則的評価方式の一本化>
複数方式の併用による乖離とスキーム横行を排除するため、評価方式の一本化を検討。
<論点3 類似業種比準方式の再検討>
根拠の薄い「しんしゃく率」や「業種目判定の困難さ」を踏まえ、あり方を根本から再考。
<論点4 純資産価額方式の位置づけ変更>
原則的評価方式から外し、特定の評価会社等の下限値・補足的評価として存置することを検討。
<論点5 配当還元方式の厳格化>
「特別の例外的措置」としての趣旨を貫徹するため、適用株主範囲の再整理(議決権割合+持株割合の導入等)を実施。
<論点6 資産管理会社の厳格評価>
スキームに多用される資産管理会社については、原則として純資産価額方式等で評価。
4.典的な租税回避スキーム
第4回資料では、評価制度の歪みを突いた租税回避スキームが具体的事例が明示され、今後の改正により類似の事案も含め指摘を受ける可能性が高いと思われます。
詳細は、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)2026年7月3日 P32~P39
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260703/pdf/04shiryo_kabukaigi.pdf
| 典型的な租税回避スキーム | 概要・特徴 |
| ① 子会社の会社規模操作(組織再編・転籍) |
グループ法人税制を利用し、従業員を転籍させて子会社を「大会社」化。上場株式等を現物出資・寄附し、類似業種比準方式を適用させて株価を大幅圧縮する手法。 |
| ② 無議決権株式を用いた配当還元方式の濫用 | 無議決権株式を発行して後継者に議決権を集約。親族等を「中心的な同族株主以外の株主」等に仕立て上げ、本来より著しく低い配当還元価額を適用させる手法。 |
| ③ オペレーティング・リース等の活用 | 中古航空機等を定率法・簡便法で急激に減価償却し、一時的に利益・純資産を激減させて株価を下げたタイミングで自社株を贈与する手法。 |
| ④ 循環貸付・評価差額作出(ホールディングス) | HD法人と子会社間で現金寄附や貸付を繰り返し、膨れ上がった負債・債務によって親会社(HD)の純資産価額を消滅・圧縮させる手法。 |
| ⑤ 株主構成操作による配当還元方式の適用 | 資産管理会社の株主構成を操作し、15%以上の議決権を持つグループをなくすことで「同族株主のいない会社」を作り出し、配当還元方式を全株主に適用させる手法。 |
| ⑥ 第三者を一時的に介在させる評価圧縮 | 同族関係のない第三者へ一時的に株式を譲渡し、後から発行会社が自己株式として買い取ることで、評価額を大きく下げる手法。 |
| ⑦ 貸付用不動産の購入と経過期間の利用 | 法人で借入により不動産を購入し、通達上の3年経過後に相続税評価額(時価との乖離)で純資産を評価させて株価を圧縮する手法。 |
今後は、有識者会議の最終報告に基づき、令和9年度(2027年度)以降の税制改正および財産評価基本通達の改正に向けて準備が進められる見込みです。特に「事業承継税制の特例措置(10年時限措置)」の期限問題(申請期限や適用関係)とも連動した議論が本格化すると考えられます。
実務上の対応としましては、過度な株価引き下げスキームの再点検を行い、組織再編や持株会社化による極端な株価圧縮は、将来的な通達改正および総則6項の適用リスクが高いため、慎重な検討が必要と思われます。また、評価方法の見直しにより将来的に株価評価が上昇する可能性を見越し、現行の事業承継税制の活用も視野に入れた検討も必要でしょう。
(文責:税理士法人FP総合研究所)