【No238】医療法における広告規制について

 近年スマートフォンやタブレットの普及によりさまざまな媒体から情報にアクセスすることができるようになったため、広告の形態が変わってきました。そのなかで、医療機関の広告は、医療法の規定に基づき一定の要件を満たさない広告については是正や罰則等の対象とされています。

 そこで本稿では、厚生労働省の「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」及び「医療広告ガイドラインに関するQ&A」を基に医療法における広告規制について解説します。

1.医療法における広告規制の現状

 インターネットにより情報を収集することで、簡単に非常に多くの情報が得られることとなった一方、情報の信憑性や整合性が十分に検証されていないことにより混乱が生じる可能性があります。

 そこで、医療機関の広告は、患者等の利用者保護の観点から、以下の考え方に基づき、限定的に認められた事項以外は原則として広告が禁止されています。

 (1)医療は人の生命・身体に関わるサービスであり、不当な広告により受け手側が誘引され不適当なサービスを受けた場合の被害は、他の分野に比べ著しいこと。

 (2)医療は極めて専門性の高いサービスであり、広告の受け手はその文言から提供される実際のサービスの質について事前に判断することが非常に困難であること。

 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」1頁より引用

2.広告の定義

 次の(1)から(2)のいずれの要件も満たす場合に、広告に該当するものと判断されます。

 (1)患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)

 (2)医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)

 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」2頁より引用

3.医療広告ガイドラインに基づいた広告可能な具体的な内容

 医療に関する広告として広告可能な内容は、患者の治療選択等に関する情報であることを前提とし、医療の内容については、客観的な評価が可能であり、かつ事後の検証が可能な事項に限られます。

 具体的には以下のとおりです。

(1)医師又は歯科医師である旨

(2)診療科名

(3)病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項並びに病院又は診療所の管理者の氏名

(4)診療日若しくは診療時間又は予約による診療の実施の有無

(5)法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院若しくは医療機関又は医師若しくは歯科医師である場合には、その旨

(6)医療法第5条の2第1項の認定を受けた医師(医師少数区域経験認定医師)である場合には、その旨

(7)地域医療連携推進法人(医療法第 70 条の5第1項に規定する地域医療連携推進法人をいう。医療法第 30 条の4第 10 項において同じ。)の参加病院等(医療法第 70 条の2第2項第2号に規定する参加病院等をいう。)である場合には、その旨

(8)入院設備の有無、医療法第7条第2項に規定する病床の種別ごとの数、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の従業者の員数その他の当該病院又は診療所における施設、設備又は従業者に関する事項

(9)当該病院又は診療所において診療に従事する医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴その他のこれらの者に関する事項であつて医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの

(10)患者又はその家族からの医療に関する相談に応ずるための措置、医療の安全を確保するための措置、個人情報の適正な取扱いを確保するための措置その他の当該病院又は診療所の管理又は運営に関する事項

(11)紹介をすることができる他の病院若しくは診療所又はその他の保健医療サービス若しくは福祉サービスを提供する者の名称、これらの者と当該病院又は診療所との間における施設、設備又は器具の共同利用の状況その他の当該病院又は診療所と保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携に関する事項

(12)診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報の提供、医療法第6条の4第3項に規定する書面の交付その他の当該病院又は診療所における医療に関する情報の提供に関する事項

(13)当該病院又は診療所において提供される医療の内容に関する事項(検査、手術その他の治療の方法については、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるものに限る。)

(14)当該病院又は診療所における患者の平均的な入院日数、平均的な外来患者又は入院患者の数その他の医療の提供の結果に関する事項であつて医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの

(15)その他前各号に掲げる事項に準ずるものとして厚生労働大臣が定める事項

 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」11頁から28頁より参照

4.医療に関する広告とみなさないもの

(1)学術論文、学術発表等

(2)新聞や雑誌等での記事

(3)患者等が自ら掲載する体験談、手記等

(4)院内掲示、院内で配布するパンフレット等

(5)医療機関の職員応募に関する広告

 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」4頁から5頁より引用

5.禁止の対象となる広告の内容

 以下のような広告は医療広告として禁止されており、内容が虚偽にわたる広告は、罰則付きで禁止されております。

(1)虚偽広告

 広告の内容が虚偽である場合、患者等に著しく事実に相違する情報を与えることとなり、適切な受診機会を奪い不適切な医療を受けさせることから罰則付きで禁止されております。

(2)比較優良広告

 不特定の他の医療機関と自院を比較対象とし、提供される医療等について優良である旨を広告をすることを示しており、医療広告として認められていません。

(3)誇大広告

 虚偽ではないが、提供される医療等のサービスについて事実を誇張して表現し、患者等を誤認させる広告を意味しており、医療広告として認められていません。

(4)公序良俗に反する内容の広告

 わいせつ若しくは残虐な画像、映像を用いる場合や差別を助長するような内容の広告は、医療広告としては認められていません。

(5)広告可能事項以外の広告

 医療広告は、患者等の治療選択等に資する情報であるため、医療法又は広告告示により広告が可能とされた事項を除き原則広告が禁じられています。

(6)患者等の主観に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談

 患者等の主観的な体験談を医療機関への誘引を目的として広告することを意味しており、こうした体験談は個々の患者等の状態により異なるため、誤認をさせる恐れがある場合は、医療広告として認められていません。

(7)治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させる恐れがある治療等の前又は後の写真等

 手術前、手術後のビフォーアフターの写真等を意味しており、これも(6)と同じく患者等の状態により異なるため、誤認をさせる恐れがある写真等は医療広告としては認められません。

(8)その他

 ①品位を損ねる内容の広告

 ②他法令又は他法令に関する広告ガイドラインで禁止されている内容

  厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」5頁から11頁より参照

6.広告違反の措置及び税務処理

 5.で上述したとおり、内容が虚偽にわたる広告は罰則付きで禁止されています。5.(1)の虚偽広告又は医療法第6条の6第4項に違反する場合(麻酔科の診療科名を広告する際に、併せて許可を受けた医師の氏名を併せて広告しなかった場合)又は行政指導に従わなかった場合には、6月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金(医療法第 87 条第1号)、報告命令(医療法第6条の8第1項)又は立入検査(医療法第6条の8第1項)に対する違反の場合には、20 万円以下の罰金(医療法第 89 条第2号)が適用されます。

 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」35頁より参照

 上記罰金は法人税の計算上損金に該当しません。また、所得税の計算上においても費用に該当しません。

7.医療広告ガイドラインQ&A

厚生労働省「医療広告ガイドラインに関するQ&A」より引用

(文責:税理士法人FP総合研究所)