【No256】「第9回全世代型社会保障構築会議」について

 2022年11月24日、全世代型社会保障構築会議が開催されました。全世代対応型の持続的な社会保障制度を構築する観点から、社会保障全般の総合的な検討を行うために立ち上げられ、今回で9回目の開催となります。

 今回の会議では、「こども・子育て支援の充実」「働き方に中立的な社会保障制度等の構築」「医療・介護制度の改革」「地域共生社会づくり」の各分野の論点整理が取りまとめられました。今回は「医療・介護制度の改革」の論点整理についてご案内します。

1.医療・介護制度の改革の検討課題

(1)医療保険制度

 2040年を視野に入れて、医療制度の改革を進めることが重要であり、特に2025年までに後期高齢者割合が急激に高まることを踏まえ、現役世代の負担上昇の抑制を図りつつ、負担能力に応じて、全ての世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みを強化する観点から、以下の点を検討課題として取りまとめられました。

 ・出産育児一時金の大幅な増額と出産費用の見える化を実施。その際、出産育児一時金の費用について、負担能力のある後期高齢者も含めて医療保険の加入者全体で支え合う仕組み。

 ・後期高齢者の保険料負担と現役世代の支援金について、賦課限度額や所得に係る保険料率の引上げにより、負担能力のある高齢者に応分の負担を求めつつ、介護保険制度も参考に、一人当たりの伸び率が均衡するような見直しを図る 。

 ・被用者保険における保険料率の格差を是正する観点から、前期高齢者の医療費の分担について検討。その際、企業の賃上げ努力を促進する形での支援を検討すべき。

 (2)医療提供体制

 コロナ禍を踏まえた医療の機能分化と連携など、医療提供体制の改革を進めていくため、以下の点を検討課題として取りまとめられました。

 ・ 少子高齢化や人口減少が更に進む中、都道府県の責務の明確化等による地域医療構想の推進、医療法人の経営状況の見える化などの医療法人改革、働き方改革の確実な実施等。

 ・ 今後の高齢者人口の更なる増加を見据え、かかりつけ医機能が発揮される制度整備は不可欠であり、早急な実現に向けて整理すべき。

  特にかかりつけ医制度についてはより詳細に検討課題が列挙されています。

 ・かかりつけ医機能の定義について、現行の省令である「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」をベースに検討。

 ・こうした機能の一つとして、日常的に高い頻度で発生する疾患・症状について幅広く対応し、オンライン資格確認も活用して患者の情報を一元的に把握し、日常的な医学管理や健康管理の相談を総合的・継続的に行うことが考えられる。そのほか、例えば、休日 ・夜間の対応、他の医療機関への紹介・逆紹介、在宅医療、介護施設との連携などが考えられる。

 ・これらの機能について、複数の医療機関が緊密に連携して実施することや、その際、地域医療連携推進法人の活用も考えられる。

 ・かかりつけ医機能の活用については、医療機関、患者それぞれの手上げ方式とすること。そのため、医療機関は自らが有するかかりつけ医機能について、住民に情報提供を行うとともに、自治体がその機能を把握できるようにする仕組み。また、必要に応じ、患者の了解を前提に、医療機関が患者の状態を把握し、総合的・継続的な診療・相談に応じる旨を分かりやすく示すこと。

 ・ 特に高齢者については幅広い診療・相談に加え、在宅医療、介護との連携に対するニーズが高いことを踏まえ、これらの機能をあわせもつ医療機関を自治体が把握できるようにすること。同時に、かかりつけ医機能を持つ医療機関を患者が的確に認識できるような仕組み。

 ・ 地域全体で必要な医療が必要なときに提供できる体制が構築できるよう、自治体が把握した情報に基づいて、地域の関係者が、その地域のかかりつけ医機能に対する改善点を協議する仕組みの導入。

3)医療分野におけるDX

 DX(デジタルトランスフォーメーション)等の著しい進展に対応した改革を進めていく観点から、以下の点を検討課題として取りまとめられました。

 ・ データヘルス、オンライン診療、AI・ロボット・ICTの活用など、DXの確実な推進。

 ・匿名データによるEBPMへの活用、マイナンバーと紐付いた社会保障データ、民間とセットで管理するPHRの連携等のデータ利活用のあり方を整理。

  ※EBPM(Evidence Based Policy Making)とは、証拠に基づく政策立案。

  ※PHR(Personal Health Record)とは、個人の健康診断結果や服薬履歴等の健康等情報を、電子記録として、本人や家族が正確に把握するための仕組み。

(4)介護保険

 高齢者人口の更なる増加と生産年齢人口の減少を見据えて、介護制度の改革を進めることが重要であり、あわせてDX等の著しい進展に対応した介護サービス提供体制の改革を進めていく必要があると取りまとめられました。検討課題は以下の3点です。

 ・地域包括ケアシステムの更なる深化・推進のため、例えば、地域の拠点となる在宅サービス基盤の整備や、地域包括支援センターの体制整備等を推進。

 ・介護職員の働く環境の改善に向けた取組の検討。(介護サービス事業者の経営の見える化や優良事例の横展開、ICT・ロボットの活用等による現場の生産性向上、行政手続のデジタル化等による業務効率化、経営の協働化・大規模化等による人材や資源の有効活用)

 ・保険制度の持続可能性を確保するため、「骨太の方針2022」や「新経済・財政再生計画改革工程表2021」等に掲げられた課題を検討。

内閣官房 「全世代型保障構築会議(第9回)論点整理(各分野の改革の方向性)(案)」を参考

2.最後に

 かかりつけ医制度については、新型コロナウイルスの感染拡大でいつも通っていた医療機関で感染症の治療を受けられないケースが発生したこともあり、かかりつけ医機能が発揮される制度整備が重要なテーマとなっています。

 今後、全世代型社会保障構築会議は論点整理に沿って、政府は年内に今後の改革の方向性を示す報告書を取りまとめていく予定です。

(文責:税理士法人FP総合研究所)