【No286】医療機関における自家消費・役員に対する贈与及び低額譲渡について

 令和5年10月1日からインボイス制度が導入されるにあたり、医療機関でも消費税の課税事業者に該当するケースがこれまでよりも増加することが考えられます。今回は、消費税の計算にあたり医療機関で注意すべき個人事業者の自家消費及び法人がその役員に対して行う資産の贈与および著しく低い価額による譲渡についてご案内します。

1.個人事業者の自家消費

 個人事業者の自家消費とは、個人事業者が棚卸資産または棚卸資産以外の資産で事業用に使用していたものを家事のために消費または使用することをいいます。

 個人事業者が自家消費を行った場合は、その資産を消費または使用した時のその資産の価額、すなわち時価に相当する金額を課税標準として消費税が課税されます。ただし、棚卸資産を自家消費した場合は、その棚卸資産の仕入価額以上の金額、かつ、通常他に販売する価額のおおむね50パーセントに相当する金額以上の金額を対価の額として確定申告したときはその取扱いが認められます。

国税庁ホームページ「No.6317 個人事業者の自家消費の取扱い」より引用

2.法人の贈与および低額譲渡

(1)法人が資産をその役員に対して贈与した場合

 資産を役員に贈与した時におけるその資産の価額、すなわち時価に相当する金額を課税標準として消費税が課税されます。ただし、棚卸資産を贈与した場合において、その棚卸資産の仕入価額以上の金額、かつ、通常他に販売する価額のおおむね50パーセントに相当する金額以上の金額を対価の額として確定申告したときはその取扱いが認められます。

(2)法人が資産をその役員に対してその資産の価額に比べて著しく低い価額により譲渡した場合、すなわち低額譲渡した場合

 法人の役員に対して著しく低い価額による資産の譲渡があった場合には、実際に役員から受領した金額ではなく、その譲渡の時におけるその資産の価額、いわゆる時価に相当する金額を課税標準として消費税が課税されます。

 この場合の、その資産の価額に比べて著しく低い価額により譲渡した場合とは、その資産の時価のおおむね50パーセントに相当する金額に満たない価額により譲渡した場合をいいます。

 なお、その譲渡された資産が棚卸資産である場合で、その棚卸資産の譲渡金額が、その資産の仕入価額以上の金額で、かつ、通常他に販売する価額のおおむね50パーセントに相当する金額以上の金額であるときは、著しく低い価額により譲渡した場合には該当しないものとして取り扱われます。

 ただし、法人が資産を役員に対して著しく低い価額により譲渡した場合でも、その資産の譲渡が、役員および使用人の全部について一律にまたは勤続年数などに応じて合理的に定められた値引率に基づき行われた場合は、時価ではなく実際の対価の額により課税されます。

国税庁ホームページ「No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い」より引用

(3)診療所での事例

 上記(1)(2)の自家消費・贈与・低額譲渡について、診療所で販売する化粧品などの棚卸資産の場合には次の取り扱いとなります。

 その棚卸資産を個人診療所の事業主が自家消費又は医療法人の理事に贈与した場合には、棚卸資産の仕入価額以上の金額、かつ、通常他に販売する価額のおおむね50パーセントに相当する金額以上の金額を対価の額として消費税の課税売上に計上して、確定申告をする必要があります。

 また、医療法人が理事に対して化粧品などの棚卸資産を低額譲渡した場合には、理事及び従業員の全員に合理的な値引き率で譲渡された場合を除き、同じく棚卸資産の仕入価額以上の金額、かつ、通常他に販売する価額のおおむね50パーセントに相当する金額以上の金額を対価の額として消費税の課税売上に計上して、確定申告をする必要があります。

 なお、自家消費・贈与・低額譲渡には診察やワクチン接種の手技など役務の提供といわれる行為は含まれません。

(文責:税理士法人FP総合研究所)