【No386】医療法人における交際費等の税務上の取扱いについて
医療法の改正によって、平成19年4月1日以降新たに設立する医療法人は、いわゆる「持分なし医療法人」のみとなりました。当時の改正によって現在に至るまで「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」が混在していますが、今回の医業経営FPNewsでは、これらの医療法人における交際費等の税務上の取扱いについてご案内いたします。
また、「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行に関する税制措置については過去の医業経営FPNews(№283)をご確認ください。
1.交際費等の範囲
(1)交際費等の定義
交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下、「接待等」といいます。)のために支出するものをいいます。
(2)交際費等から除かれる費用
次の費用は交際費等から除かれます。
①専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
②飲食その他これに類する行為(以下、「飲食等」といいます。)のために要する費用(専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除きます。)であって、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が10,000円以下である費用
なお、この規定は次の事項を記載した書類を保存している場合に限り適用されます。
・飲食等のあった年月日
・飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称及びその関係
・飲食等に参加した者の数
・その飲食等に要した費用の額、飲食店等の名称及び所在地(店舗がない等の理由で名称または所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名または名称、住所等)
・その他飲食等の要した費用であることを明らかにするために必要な事項
③その他の費用
・カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用
・会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用
・新聞、雑誌等の出版物または放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、または放送のための取材に通常要する費用
(注)上記②の費用の金額基準である10,000円の判定や交際費等の額の計算は、法人の適用している消費税の会計処理(税抜経理方式または税込経理方式)により算定した価額により行います。
国税庁「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」参照
2.交際費等の損金不算入
法人が支出した交際費等の額は、原則としてその全額が損金不算入とされていますが、 損金不算入額の計算に当たっては、次の法人の区分に応じ、一定の措置が設けられています。
(1)期末の資本金の額または出資金の額が100億円を超える法人
支出する交際費等の額の全額が損金不算入となります。
(2)期末の資本金の額または出資金の額が1億円を超え、100億円以下である法人
交際費等の額のうち、飲食その他これに類する行為のために要する費用(専らその法人の役員もしくは従業員
またはこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除きます。以下、「接待飲食費」といいます。)の50%に
相当する金額を超える部分の金額が損金不算入となります。
(3)期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下である法人
次のいずれかの金額が損金不算入となります。
①接待飲食費の50%に相当する金額を超える部分の金額
②800万円(事業年度が12か月である場合)を超える部分の金額
国税庁「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」参照
国税庁「交際費等の損金不算入制度の見直し」36項引用
3.医療法人における交際費等の損金不算入
(1) 持分なし医療法人の場合
上記2のとおり期末時点の資本金や出資金の額を基準として交際費等の損金不算入の規定が設けられていますが、持分なし医療法人においては資本金や出資金といった概念が存在しません。そこで、公平な課税を行うため、持分なし医療法人においては代替的な基準として「資本金の額または出資金の額に準ずる金額」を用いて、 上記2.(1)~(3)の区分判定を行うこととなっています。「資本金の額または出資金の額に準ずる金額」の計算方法は以下のとおりです。
【計算式】
①当期に利益が出ている場合
(期末総資産の帳簿価額ー期末総負債の帳簿価額ー当期利益の額)× 60%
②当期に欠損金が発生している場合
(期末総資産の帳簿価額ー期末総負債の帳簿価額+当期欠損金の額)× 60%
(注)設立時に拠出された基金は、上記の計算式において「期末総負債の帳簿価額」に含まれます。
【計算例】
持分なし医療法人の期末の状況が、総資産帳簿価額30,000万円、総負債帳簿価額12,000万円、当期利益2,000万円で
あった場合
(30,000万円ー12,000万円ー2,000万円)× 60% = 9,600万円 ≦ 1億円
この場合、「資本金の額または出資金の額に準ずる金額」が1億円以下であるため、上記2.(3)の法人の区分となり、
交際費等の損金不算入の判定を行います。
(2)持分あり医療法人の場合
期末の出資金の額に応じて、上記2.(1)~(3)の法人の区分判定を行います。
国税庁「一般社団法人に係る交際費課税上の「基金」の取扱いについて」参照
4.さいごに
上記3.(1)の【計算式】において、「資本金の額または出資金の額に準ずる金額」を1億円として逆算すると、基金を除いた純資産額が166,666,666円を超えた場合、上記2.(2)に該当することとなります。
資本金または出資金の額が1億円以下である法人に相当する場合、最大で800万円まで交際等の損金算入が認められますが、1億円超である法人に相当するとその損金算入額は減少することとなります。
持分あり医療法人は出資金の額に変動がない限り、上記2により毎期同じ法人の区分判定となりますが、持分なし医療法人は上記3により毎期末に法人の区分判定を行い、交際費等の損金算入額を検討する必要がありますので、ご注意ください。
(文責:税理士法人FP総合研究所)