【No718】配偶者居住権等に係る譲渡所得の取扱い 続報

  配偶者居住権は平成30 年の民法改正により創設された配偶者の居住権を保護するための方策であり、令和2 年4 月1 日より 施行されています。これを受けて令和2 年度税制改正大綱では、対価を得て配偶者居住権等を消滅させた場合には譲渡所得として 課税されることが公表され、令和2 年1 月27 日付けの資産税FP News(vol.695)にて取扱いをご紹介しました。しかし、総 合課税として課税されるのか、分離課税として課税されるのか、については明確にされておりませんでしたが、令和 2 年 7 月 1 日付けで令和2 年度税制改正に係る譲渡所得関係通達が公表され、その取扱いが明確になりましたのでご紹介します。

1. 配偶者居住権等を消滅させた場合の課税関係

配偶者居住権等は譲渡をすることはできませんが、合意解除・放棄等によって消滅させることは可能です。配偶者居住権等を消 滅させることによって生じる課税関係は、配偶者居住権等の消滅による「対価」を受け取ったか否かにより異なります。

区分 取扱い
対価を受け取ることなく配偶者居住権等を消滅させた場合 原則として、配偶者から建物等所有者に対して、その消滅直前に配偶者が有していた配偶者居住 権の価額に相当する利益又は土地を配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益 に相当する金額を贈与したものとして、建物等所有者に対して贈与税が課されます。
対価を受け取って配偶者居住 権等を消滅させた場合 配偶者に対して総合課税(注)による譲渡所得として所得税等が課されます。

(注)改正租税特別措置法関係通達において以下のように示されました、(一部抜粋)

31・32 共-1(分離課税とされる譲渡所得の基因となる資産の範囲)

分離課税とされる譲渡所得の基因となる資産は、次に掲げる資産に限られるから、鉱業権(カッコ内中略)、温泉を利用する権 利、配偶者居住権(当該配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地(土地の上に存する権利を含む。)を当該 配偶者居住権に基づき使用する権利を含む)、借家権、土石(砂)などはこれに含まれないことに留意する。

2. 譲渡所得の計算方法

  対価を受け取って配偶者居住権を消滅させた場合には、総合課税により課税されることとなるため、下記の算式により譲渡所得 金額が計算されることとなり、短期譲渡所得に該当するか長期譲渡所得に該当するかによって譲渡所得金額が異なります。

区分 算式
短期譲渡所得(所有期間5 年以内の譲渡) 譲渡価額 -(取得費(注)+譲渡経費)- 50 万円
長期譲渡所得(所有期間5 年超の譲渡) { 譲渡価額 -(取得費(注)+譲渡経費)- 50 万円 } ×1/2

(注)取得費の取扱いについては、資産税FP News(vol.695)にてご紹介済みですので、ここでは説明を割愛します。

【短期・長期の判定について】

  配偶者居住権等は、相続又は遺贈により取得することとされているため、本来は、相続又は遺贈があった日以後5 年を超えるか 否かにより、短期・長期の判定を行うことになりますが、「所得税法施行令82 条」の改正において、配偶者居住権の目的となって いる建物等を取得した日で所有期間を判定する旨の記載があることから、実質的には、被相続人の取得時期を引き継いで短期・長 期の判定を行うこととなります。

3. 配偶者居住権等に関するその他の改正通達について

同改正通達では、上記の他に配偶者居住権等に関して下記の通達が新設されております。

  • 配偶者居住権等が消滅した場合における建物又は土地等の所有期間の判定について(31・32 共-7)

配偶者居住権等が消滅した後に、配偶者居住権等の目的となっていた建物又は土地等を譲渡した場合の所有期間の判定における 「取得をした日」は、配偶者居住権等の取得の時期にかかわらず、当該建物又は当該土地等の取得をした日となります。

  • 配偶者居住権を有する居住者が建物又は土地等を譲渡した場合の所有期間の判定について(31・32 共-8)

配偶者居住権を有する居住者が、配偶者居住権の目的となっている建物又は建物の敷地の用に供される土地等を取得し、当該建 物又は当該土地等を譲渡した場合の所有期間の判定における「取得をした日」は、配偶者居住権等の取得の時期にかかわらず、当 該建物又は当該土地等の取得をした日となります。

(担当:河野 哲也)

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