【No725】相続税における更正の請求について(事例から考える注意点)

 税務手続においては、一旦、提出した確定申告書について計算の誤り等があり、当初の申告税額が過大であった場合には、『更正の請求』という手続きが認められています。相続税における更正の請求の根拠法は、一般的な更正の請求(=国税通則法による更正の請求)と、相続という事象の特殊性から想定される更正の請求(=相続税法における特則による更正の請求)の2つがあります。今回はこの二つの相違点について、ある事例を取り上げて考えたいと思います。

【事例と質問】

 被相続人:甲(平成26年2月10日逝去)の死亡により、相続人の子であるAとBとCは、相続税の計算を含む相続手続きを進めていたが3人の分割協議が申告期限(平成26年12月10日)までに調わず、相続税においては法定相続分分割による期限内申告を適正に行いました。その後、相続人3人の協議は調停を経て家事審判で確定したのが令和2年3月1日でした。

 その後、相続人Aは当初申告の内容からすると取得財産割合が減少するため、更正の請求手続を税理士に依頼しました。依頼を受けた税理士は、更正の請求の手続処理に着手したところ、当初申告における不動産(土地)の評価額が過大に評価されていることが判明しました。この土地の評価の是正を、この度の更正の請求と併せて認められることができるでしょうか?

【回答】

 土地の評価の是正については認められません。

【理由】

 遺産分割が確定したことによる更正事由は、相続税法の特則による規定(相続税法32条)であり、他方、相続税の課税価格の基礎となる財産等の計算に誤りがあったことによる更正事由は、国税通則法の規定(国税通則法23条)によるものとなります。

 ところで、相続税法32条には、同条各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、また、国税通則法の23条には、同条各号に規定する事由に該当した場合には、国税の法定申告期限から5年以内に限り、更正の請求を行うことができる。とあります。

 ①相続税法32条各号要約(詳細は条文本文参照)

  未分割財産が分割されたこと、相続人の異動があったこと、遺留分侵害額請求による金銭が確定したこと、遺言書の発見や遺贈の放棄があったことなどの理由により、相続税額等が過大となった場合(相続固有の後発的事由)。

 ②国税通則法23条各号要約(詳細は条文本文参照)

  当初の申告書に記載した税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと、又は、その計算方法に誤りがあったことなどの理由により、税額等が過大となった場合

つまり、土地の評価額が過大であるという計算誤りによる更正の請求は、申告期限から5年以内において行わなければならず、その期限が徒過してしまっている以上、今回の遺産分割の審判という事象による更正の請求は、既に確定している財産額等により計算すべき内容となります。

【まとめ】

 相続の手続においては、申告期限までに分割協議が成立しない場合においても法定相続分分割により相続税の申告書を提出する必要があります。また、相続税の申告書は相続人ごとに提出することができるため、遺産分割等に争いがある場合には税理士が複数人関与するケースも想定されます。その場合には、当初申告だけではなく、遺産分割協議が調ったあとのことも想定し、相続税における情報共有は行っていただくのがよいと思います。

 また、その後においては、遺産分割だけでなく、相続税の申告内容についても専門家にご相談されることも肝要です。

 (担当:高田 隆央)