【No778】上場株式等の配当所得等に係る課税方式の選択制度の改正について

 平成29年度の地方税法の改正において、上場株式等の配当や株式譲渡に伴う源泉徴収特定口座の申告について、所得税と住民税で異なる課税方式を選択できることが明確化されました。この改正に基づき、現在では、所得税の確定申告とは別に、上場株式等の配当等について申告不要を選択する旨を記載した住民税の申告書を提出することで、所得税と異なる課税方式を選択される方が増えたものと思われますが、この課税方式の選択に係る申告手続について、令和3年度の税制改正において改正がされました。

 今回は課税方式の選択制度の概要とその改正内容について紹介します。

1.課税方式の選択制度について

(1)申告方法の選択

 現在の証券税制において、次の①、②についてはそれぞれ申告方法を選択することができます。

 ① 上場株式や投資信託の売却(特定口座で源泉徴収有りを選択している場合に限る)⇒ 申告不要or申告分離課税

 ② 株式の配当金や投資信託の分配金 ⇒ 申告不要or申告分離課税or総合課税

(2)所得税

 上記①、②については既に源泉徴収が行われているため所得税の申告は必要ありませんが、下記の場合には、あえて申告を行うことで、所得税の還付を受けることができます。

 A.2か所以上の金融機関の損益を通算するために分離課税を選択して申告

 B.過去の株式等の譲渡損失を繰り越していて、本年分の利益と通算するために分離課税を選択して申告

 C.上場株式等の配当につき配当控除を受けるため総合課税を選択して申告

(3)住民税

 住民税については、所得税の確定申告データが税務署から市区町村に送られ、それを基に計算することとなるため、原則として、所得税において選択した課税方式と同様の課税方式により住民税の計算を行います。

 そのため、所得税で申告不要以外の方式を選択した場合には、配当所得等が追加で計上されることから、申告不要を選択した場合と比較すると、所得税の所得は増加し、これに応じて住民税の所得も増加することとなります。

 住民税の所得は、住民税以外にも、a.国民健康保険料b.後期高齢者医療保険料c.介護保険料などの計算基礎として用いられるほか、d.医療機関での窓口負担割合が3割となる現役並み所得者に該当するかの判定基礎としても用いられるため、住民税の所得が増加することで、これらの負担も増加する可能性があります。 

(4)課税方式の選択

 そこで、課税方式の選択制度を利用し、所得税の確定申告とは別に、上場株式等の譲渡や配当等について申告不要を選択する旨を記載した住民税申告書を地方自治体に提出することで、所得税計算においては上記(2)のメリットを享受しつつ、住民税計算においては所得増加を防ぎ、上記(3)のデメリットを回避することができます。

2.改正点

 異なる課税方式を選択するためには別途住民税の申告書の提出が必要となりますが、①住民税の申告書の作成が必要であること②地方自治体によって申告方法、申告様式がよって異なること③個人住民税が電子申告に対応していないことなどから、住民税の申告による事務負担の増加といった問題が指摘されていました。

 そこで、令和3年度の税制改正において、令和3年分以後の確定申告書を令和4年1月1日以後に提出する場合は、所得税の確定申告書の提出のみで申告手続が完結できるように、確定申告書に個人住民税に係る附記事項が追加され、住民税の課税方式について確定申告書に附記するだけで、所得税と異なる課税方式を選択できることとなります。

3.今後の動向

 「令和2年度個人住民税検討会報告書」において、上記のように①当該制度が税金だけでなく社会保険料にまで影響を与えること②課税方式の選択によって所得税と住民税の所得範囲が異なることなどが公平性の観点から問題視されており、将来的に所得税と住民税の課税方式を一致させる方向で見直しを行うことも考えられると述べられています。

 将来的には課税方式の選択制度の廃止も考えられることから、今後の動向について注視する必要があります。

(文責:税理士法人FP総合研究所)