【No803】親から子への贈与に当たるか否かが争われた事例について

 近い将来、暦年贈与が廃止される可能性が話題になっており、贈与に関する今後の動向が大変注目を集めています。今回は、平成27年9月1日に公表された裁決事例を素材とし、親が購入した車両の名義人を子にした場合について、贈与に当たるか否かが争われたケースをご紹介します。

1. 贈与の意義

 相続税法における贈与税の課税対象となる贈与(相続税法第9条)については、贈与を受けた者が贈与を行った者の贈与の意思を受諾していなかったとしても、対価を支払わないで利益を受けたという事実がある限り、贈与税の課税は相当と解されます。一方、財産の名義変更があった場合、不動産、株式等の名義の変更があった場合において対価の授受が行われていないとき又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として取り扱うものとすると定められています(相続税法基本通達9-9)。

2. 平成27年9月1日裁決

(1)事実の概要

 当該裁決は、親の購入した車両について子名義で登録されていることから、子が贈与によって取得したと認められるとして、贈与税の決定処分等をしたのに対し、子が、単なる名義貸しであり、贈与はないなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2)経緯

 以下の資金移動(イ)(ハ)について、父からの贈与により財産を取得したといえるか否かが争われました。

(3)主張

 【請求人(子)】

 車両の贈与を受けたとはいえない。なぜなら、本件車両は親が自己資金で取得した単独所有物であり、子も親もそのように認識している。本件車両の購入手続や税金および維持費の支払は親が全て行っている反面、子は、2、3回運転したことがあるだけで他に何もしていないことからも明らかである。このように親が子の名義を借用したものであり、贈与ではない。

 【課税庁】

 車両の贈与を受けたと認められる。なぜなら、本件車両はその代金全額を父が負担しているのに、子の名義で登録されているから、相続税法基本通達9-9により、原則として贈与として取り扱うこととなる。

(4)審判所の判断

 親から子に対する本件車両の贈与の事実を認定することはできないから、本件決定処分は、その全部を取り消すべきである。結局のところ、親は自らの判断で購入すべき車両を選定して本件車両の取得資金を拠出し、本件車両の維持・管理に必要な費用をすべて負担し、後日、自らの判断で本件車両を売却して同売却代金を受領し、新たな車両を購入しており、これは正に所有者らしい振る舞いであると評価できる。これに対して、子が本件車両の所有者であったことを伺わせる事情は特に認められず、かえって、贈与があったとすれば不自然ともいい得る事情の存在も認められる。したがって、課税庁の主張には理由がない。

3. さいごに

 今回ご紹介した事例では、相続税法基本通達9-9に定める「他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合」に該当するから、反証のない限り、親から子への贈与として取り扱われる。しかし、贈与の不存在について反証がされているといえるから、贈与を受けたとは認められなかった。一般に利用しない者に対して車両を贈与するとは考え難いことに照らせば、贈与の事実を疑わせる事情といえる。親子間における名義貸しに関する当該裁決の判断は、実務上参考になると考えられます。具体的には、ケースバイケースではありますが、贈与ではなく単なる名義貸しである場合には、贈与の不存在について反証がなされれば、万が一課税庁との争いが生じたとしても意図していない贈与税課税を回避できる可能性があるといえます。

(文責:税理士法人FP総合研究所)