【No804】小規模宅地等の特例における生計一親族の定義について

 小規模宅地等の特例適用の是非に関して、東京高裁における令和3年9月8日の裁決において、納税者の控訴を棄却しています。この判決事例では、生計一親族の要件に該当しないことにより控訴人の主張を斥けています。今回は、小規模宅地等の特例における生計一親族の定義についてご説明します。

1. 令和3年9月8日判決(東京高裁)の概要

(1)事案の概要

 被相続人の成年後見人である相続人は、被相続人が所有していた土地の上で大工業を営んでいました。被相続人から相続した土地について小規模宅地等の特例を適用し、相続税の課税価格に算入する価額を算出して相続税の申告をしたところ、本件特例の適用は認められないとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしました。本件は、各処分は違法として、取消しを求める控訴審であります。

(2)争点

 被相続人の家計管理に相続人の協力が必要不可欠な状況における小規模宅地等の特例の適用の是非が争点となります。

(3)控訴人の主張

 特定事業用宅地等の小規模宅地等の特例の要件において、所得税法56条の「生計を一」の概念を用いることとして、幅広く財布を一つにしている状態を対象と考えるのが相当であると主張しています。

 被相続人には駐車場の賃料収入があったものの、被相続人の成年後見人として、被相続人の生活を維持するためには相続人の協力が必要不可欠であったことから、生計を一にしていたと認めるのが相当であるとしています。本件は成年後見事案であることから、親族間における生計費等の出入金がなかったのは当然のことであって、出入金の有無により生計を一にしていたか否かを判断するのは相当ではないとしています。

(4)東京高裁の判断

 東京高裁は、所得税法56条の趣旨と本件特例の趣旨を照らし合わせた上で、本件特例を所得税法56条と同様に解することは相当ではなく、本件特例の趣旨に従って解釈すべきとしています。

 所得税法56条では、世帯単位課税であることに着目して、その親族間における給与等の支払を所得計算上考慮しないことを定めていることに対して、本件特例の趣旨は、被相続人と生計を一にしていた相続人の事業の用に供されていた宅地等について、相続人の相続税負担の軽減を図るものであるため、相続人は被相続人の家計の管理の協力に必要不可欠ということのみでは生計一親族とは認めないとの判断です。

 生計費の出入金の状況や同居していなかったことなどから、相続人が本件特例対象土地の上で営んでいた事業によって被相続人の生計が支えられていたとはいえないとして、本件特例を適用できないとしています。

2. 生計一親族の定義

 生計一親族の定義は、相続税法に関する措置法その他通達等においても明示されていないので、その解釈は「所得税基本通達2-47」を参考とします。

【所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義)】

 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。

(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。

 イ 他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合

 ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

3. 生計一親族の判断における注意点

(1)所得税基本通達2-47の解釈

 所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義)からして、生計を一にしていることが認められる判断基準は、次のようになると考えられます。

①被相続人と同居している親族である場合

 明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、生計を一にしていると認められます。

②被相続人と別居している親族である場合

 別居している親族が、勤務、修学等の余暇には被相続人と起居を共にすることを常例として、さらにこれらの親族間で生計費の送金等が行われている必要があります。

(2)まとめ

 所得税基本通達2-47では、一時的に同居していない親族を前提として、これらの親族間で生計費の送金等が行われている場合において生計を一にしていることを認めるものであります。よって、生計費の送金等が行われていることのみをもって、必ずしも生計一親族であることが認められるわけではないことに留意する必要があります。

(文責:税理士法人FP総合研究所)