【No935】遺言執行者の役割

 円滑な財産承継のためには遺言書作成は欠かせません。遺言書では遺言執行者を指定することができ、遺言執行者に指定された方は、相続登記の申請や預貯金の解約など、様々な手続を行うことができます。

 改正前の民法では、遺言執行者は「相続人の代理人とみなす」と規定するのみで、遺言執行者の法的地位が明確ではありませんでした。そのため、遺言の内容によっては、遺言者の意思と相続人の利害が対立する場合があり、遺言執行者と相続人との間でトラブルが生じることが多いと指摘されていました。そこで、民法改正(令和元年7月1日施行)によって遺言執行者の法的地位と権限の内容が明確化されました。今回は遺言執行者に就任した場合の役割について解説します。

~参考~

〇民法第1012条1項(遺言執行者の権利義務)

 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

〇民法第1015条(遺言執行者の行為の効果)

 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

1.就職通知書の送付及び遺言内容の開示

 従来は、遺言執行者から相続人へ財産目録の交付は義務づけられていたものの、遺言内容を通知する明文の規定がありませんでした。民法改正により、遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならないことが明文化されました。

~参考~

〇民法第1007条2項(遺言執行者の任務の開始)

 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

《通知書サンプル》

2.相続財産目録の作成

 改正前及び改正後においても、遺言執行者は相続財産目録を相続人に交付しなければならないとされています。相続財産目録は、相続財産の状態を具体的に明らかにすればよく、遺言執行者には特に個々の財産の価額を調査するまでの義務はありません。ただし、相続人からの請求がある場合は、委任に基づく報告義務として個々の相続財産の評価額を調査・報告する必要が出てきます。(下記の相続財産目録サンプルでは、預貯金の金額欄がありますが、金額の記載は必須ではないと思われます。ただし、相続人から請求があった場合には報告しなければならないと考えられます。

~参考~

〇民法第645条(受任者による報告)

 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

〇民法第1011条1項(相続財産の目録の作成)

 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。

〇民法第1012条3項(遺言執行者の権利義務)

 第645条の規定は、遺言執行者について準用する。

《相続財産目録サンプル》

3.不動産の登記申請権限

 特定財産を相続人の1人に相続させる遺言があれた場合において、従来の登記実務では、登記申請ができるのは当該相続人に限られ、遺言執行者には登記申請権限はないとされていましたが、民法改正により、遺言執行者も登記申請をすることができることが明文化されました。

~参考~

〇民法第1014条2項(特定財産に関する遺言の執行)

 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項(共同相続における権利の承継の対抗要件)に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

4.預貯金解約や払戻し

 従来は、一部金融機関において、遺言執行者がある場合であっても、相続人全員連署による払い戻し請求がなければ払い戻しに応じないという扱いがあったところ、民法改正により、遺言執行者において払い戻し請求及び解約申入れができることが明文化されました。ただし、預貯金の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限るとされています。

~参考~

〇民法第1014条3項(特定財産に関する遺言の執行)

 前項(上記「3.不動産の登記申請権限参照」)の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

5.遺言執行者の復任権

 従来は、やむを得ない事由がある場合又は遺言者が遺言書で復任権を認めた場合でなければ、遺言執行者は第三者にその任務を行わせることができないとされていましたが、民法改正により、第三者に任務を行わせることができるようになりました。(遺言者が遺言書によって第三者に任務を行わせることを禁止している場合を除きます。)

~参考~

〇民法第1016条1項(遺言執行者の復任権)

 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

6.まとめ

 民法改正により、これまで不明確であった遺言執行者の法的地位が明確となり手続が行いやすくなりました。遺言執行者が指定されていない場合には、遺言があっても相続人全員で相続手続を行わなければならず、手続が煩雑になります。これから遺言書を作成する場合には、遺言執行者を指定されることをお勧めします。

(文責:税理士法人FP総合研究所)