【No196】「新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事する医療職の収入確認の特例」について②

 医業経営FPNews【No191】では、厚生労働省より通知された令和3年6月4日通知「新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事する医療職の 被扶養者の収入確認の特例について」をご案内しました。この特例はワクチン接種業務に従事する医療従事者を対象としており、ワクチン接種会場の受付・医療機関の受付等は対象外となっております。

 しかし、新型コロナウイルスが猛威を奮い始めた当初、厚生労働省より通知された事務連絡令和2年4月10日「被扶養者の収入の確認における留意点について」では、新型コロナウイルス対応により一時的に収入が増加する被扶養者について、その適用対象者は特に制限されておりません。

 そこで、本特例の対象外となる方の、ワクチン接種業務に付随して収入が増加した場合の取扱いについて、社会保険の被扶養者認定の観点からご案内します。

1.本特例の趣旨

 新型コロナウイルスワクチン接種業務は例年にない対応として、短期集中的に行われるものであります。そこで、接種業務に従事する医療職※(医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士及び救急救命士)については、ワクチン接種業務に従事したことに伴う給与収入については、申立書を保険者に提出することにより収入確認の際に収入に算定されないこととされています。

厚生労働省「令和3年6月4日通知新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事する医療職の被扶養者の収入確認の特例について」より参照

※具体的には、ワクチン接種会場や医療機関において、直接ワクチンの注射や予診(予診のサポートを含む。)、ワクチンの調整、接種後の経過観察等に有資格者として従事する医療職が対象となります。

厚生労働省「新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事する医療職の被扶養者の収入確認の特例に関するQ&A(被保険者・被扶養者向け)2頁」より引用

2.社会保険の被扶養者認定の条件

 日本国内に住所(住民票)を有しており、かつ、被保険者により主として生計を維持されている場合で、下記の要件を満たすときは被扶養者に該当します。

(1)収入要件

 年間収入※130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ

 ①同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満

 ②別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

 ※年間収入とは過去の収入を意味するのではなく、被扶養者に該当する時点及び認定された日以降の年間の見込収入額を意味しています。

(2)同一世帯要件

 ①被保険者と同居が必要ない者

 「配偶者」「子、孫及び兄弟姉妹」「直系尊属」

 ②被保険者と同居が必要である者

 上記①以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者)、内縁関係の配偶者の父母及び子

日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」より引用

 3.特例措置の対象とならない方について

 1.で示したとおり、本特例の対象者は、ワクチン接種業務に従事する医療従事者であり、令和3年4月から令和4年2月末までのワクチン接種業務に対する賃金については収入確認の際に収入に算定しないこととなっています。

 しかし、本特例の対象とならない方についても、新型コロナウイルス感染症への対応のため、一時的な残業時間の増加等により収入の増加した場合には、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、令和2年4月10日付の事務連絡の内容を留意するよう示されています。

日本医師会「令和3年4月27日健康保険の被扶養者認定における新型コロナウイルスワクチンの接種業務に 従事したことによる一時的な収入増加の取扱いについて」より参照

4.事務連絡令和2年4月10日被扶養者の収入の確認における留意点について

 令和2年4月10日発出の「被扶養者の収入の確認における留意点について」では下記事項を留意するように各保険者に示されています。

(1)被扶養者と認定した者は、認定後も年1回は、保険者が被扶養者に該当・要件を満たしているのか確認すること。

(2)収入確認には、勤務先から発行された給与明細書等の被扶養者の過去の収入、現時点の収入又は将来の収入の見込みなどを考慮し今後1年間の収入を見込むこと。

(3)(2)の場合であっても、認定時には想定していなかった事情から、臨時的に収入が増加し、直近3ヶ月の収入を年収に換算すると130万円となる場合でも、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、過去の収入実績等から総合的に将来の収入を見込むこと。

(4)被扶養者認定を受けている方の過去1年間の収入が、昇給や公休的な勤務時間の増加を伴なわない一時的な事情により、その1年間のみ上昇し、結果的に130万円以上となる場合でも、被扶養者認定を取り消さないこと

厚生労働省 「事務連絡令和2年4月10日被扶養者の収入の確認における留意点について」より参照

5. 最後に

 本特例を適用する場合には、一定の手続をすることでワクチン接種業務に伴う収入については、被扶養者認定の際に収入に算定しないこととされています。一方で、厚生労働省は本特例の対象外とならない方についても、今般の新型コロナウイルス感染症対策に対応するために増加した収入については各保険者に適切な対応を求めています。

 したがって、本特例の対象外となる被扶養者は、ワクチン接種業務に伴い収入が増加した場合でも、直ちに被扶養者の収入要件から除外されるのではなく、保険者との折衝により判断されることとなるため注意が必要となります。

 また、本特例は社会保険の被扶養者認定におけるものであり、税制上の特例ではないことも併せて注意が必要となります。

(文責:税理士法人FP総合研究所)